そんなことよりキスだった…佐藤文香著 左右社

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

そんなことよりキスだった

『そんなことよりキスだった』

著者
佐藤文香 [著]/山本さほ [イラスト]
出版社
左右社
ISBN
9784865282160
発売日
2018/12/25
価格
1,925円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

そんなことよりキスだった…佐藤文香著 左右社

[レビュアー] 岸本佐知子(翻訳家)

 主人公の「あやか」は天パーで眼鏡、声と足がでかくて目立ちたがり、ついたあだ名は「パンチ佐藤」。正直あんまりイケてない彼女は、だが並外れた恋愛体質の持ち主で、とにかく誰かを好きになっては速攻でコクり、振られてもめげずにまた別の誰かを好きになる。そんな彼女の小学校から大人になるまでの恋愛遍歴を三十の断章で描く。

 次々と現れては消える恋バナ千本ノック、恋バナわんこそば。あけすけで前のめりでひたすら可笑(おか)しい。でもなんでだろう、読むうちにだんだん心が透き通ってくる。それは時おり顔をのぞかせる、少し遠い視線のせいかもしれない。恋人と楽しく一日を過ごしながら〈こんな素晴らしい今日も、どうせ簡単に「大学時代の思い出」になってしまうんだろう〉とさらっと思う彼女は、生きることの根っこにある寂しさとつながっている。生きることは寂しく、瞬間はいとおしい。その同じ根っこから、俳人である作者の句も生まれてくるのかもしれない。〈流れ星 ピアニカが息を欲しがる〉。この本には、こんな美しい句が真珠のようにちりばめられている。

読売新聞
2019年3月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加