82年生まれ、キム・ジヨン…チョ・ナムジュ著 筑摩書房

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82年生まれ、キム・ジヨン

『82年生まれ、キム・ジヨン』

著者
チョ・ナムジュ [著]/斎藤真理子 [訳]
出版社
筑摩書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784480832115
発売日
2018/12/06
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

82年生まれ、キム・ジヨン…チョ・ナムジュ著 筑摩書房

[レビュアー] 村田沙耶香(作家)

 この本には、韓国のある一人の女性の人生が綴(つづ)られている。ある普通の女性が当たり前に背負わされている絶望。これが「特別な誰か」の物語ではない、という事実が、とてもショッキングであると同時に大きく頷(うなず)かされる。

 物語は、主人公のキム・ジヨンが33歳になったある日、「異常な症状」が見られた場面から始まる。彼女は夫に連れられて精神科へ行き、医師は彼女の人生を整理して記録することになる。キム・ジヨンは1982年にソウルで生まれた女性だ。私と3歳違いの彼女をほぼ同世代といっていいだろう。キム・ジヨンには姉と弟がいる。弟は「男の子」だからという理由で食事も布団も優先的に与えられ、姉とキム・ジヨンは残りを二人で分け合う。初めっからそうだったのだからうらやましくなかった、というキム・ジヨンに、それからも不当な出来事がどんどん襲いかかる。学校に入って身体を触る男性教師に耐えなければいけないこと。予備校の帰り道、男子生徒に追いかけられ恐ろしい目にあったこと。大学受験で姉が一番行きたかった大学をあきらめたこと。就職のとき男と女がはっきりと区別されたこと。やっと就職した会社でも不当な出来事は続き、けれど好きだった仕事を、「女」だから辞めなければいけなかったこと。それなのに差別用語を浴びせられてしまった瞬間は、涙と吐き気が同時に襲ってきた。

 この物語の舞台は韓国だが、遠い物語ではない。同じか、場合によってはさらに酷(ひど)い困難を、日本でもたくさんの女性が抱えている。この物語が存在することで、「あれは不当な出来事だったんだ」「あのとき、傷ついてもよかったんだ」と気が付く女性もたくさんいるだろう。

 これは女性だけの物語ではない。フェミニズムに抵抗がある人にも読んで欲しいし、一緒に考えるべき一冊だと思う。10年後のキム・ジヨンがどんな人生を送っているか、それは今を生きる私たちにかかっているのだ。斎藤真理子訳。

読売新聞
2019年3月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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