テレビ社会ニッポン 自作自演と視聴者 太田省一著

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テレビ社会ニッポン

『テレビ社会ニッポン』

著者
太田省一 [著]
出版社
せりか書房
ISBN
9784796703789
発売日
2019/01/07
価格
2,640円(税込)

テレビ社会ニッポン 自作自演と視聴者 太田省一著

[レビュアー] 荻上チキ(批評家、ラジオパーソナリティー)

◆「劇場」に巻き込み、拡大

 「マスメディアの時代が終わり、ウェブの時代がやってきた」などと喧伝(けんでん)されて、もう十年以上が過ぎた。しかし、今なお、テレビの影響力は大きい。

 『テレビ社会ニッポン』は、バラエティー番組などの変遷を追うことで、テレビがいかに「自作自演」的な空間を拡張してきたのかを描き出す。本書でいう「自作自演」とは、「自分自身がその出来事に関与していながら、あたかもそれが客観的出来事であるようにふるまうこと」。著名人を作り上げ、その行動をいじり、時にはそれを難じ、引きずり下ろす。そのような壮大な自作自演をテレビは何十年と継続してきた。

 同時にその手法は、時代とともに変化もしてきた。ドッキリの手法、スタジオ収録での観客いじり、芸人達(たち)がいじり合う「ひな壇」トーク、お笑いのコンクール化など、視聴者が自分自身を参加者・目撃者であると錯覚させ、共犯者に仕立て上げていく。巧妙化する手法を、膨大な出演者の振る舞いや企画の遷移に着目することで浮かび上がらせていく、軽妙な戦略分析の手腕が本書の面白みだ。

 ここでの指摘は、現在の報道番組を見る上でも役立つであろう。例えばNHKが「紅白のメンバーが発表されました」などと「報道」する。民放ワイドショーが、延々と特定事件の群像劇や推理ごっこに興じる。そうした姿勢がこと政治問題においても染み込み、「自作自演」的な共犯関係を築き、「政治の劇場化」「社会問題の劇場化」を加速させていないかどうか、チェックのための視座をくれる。

 本書はテレビ的な「自作自演」が、ウェブ空間とも地続きであると見なしていく。ウェブ上でのつながりは、テレビにツッコミを入れながら反応をシェアすることで、むしろテレビ文化圏を拡大する。新たな動画文化も、時にはテレビを模倣した仕方で、しかしよりスピード感ある仕方で、内輪空間へと引きずりこむ。視聴者の位置は変容するが、自作自演社会は加速する。今こそテレビの総括が必要だと納得する。

(せりか書房・2592円)

 1960年生まれ。社会学者、文筆家。著書『テレビとジャニーズ』など。

◆もう1冊 

 佐藤卓己(たくみ)著『テレビ的教養-一億総博知化への系譜』(岩波現代文庫)

中日新聞 東京新聞
2019年3月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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