現代の「満たされなさ」の正体は2500年前、老子に指摘されていた

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マスターからの手紙

『マスターからの手紙』

著者
雲 黒斎 [著]
出版社
小学館
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784093886925
発売日
2019/04/03
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

現代の「満たされなさ」の正体は2500年前、老子に指摘されていた

[レビュアー] 雲黒斎

雲黒斎
雲黒斎

 現代の日本において人気のある中国の思想書といえば、儒教の開祖・孔子の『論語』が有名ですが、それに勝るとも劣らない書が『老子道徳経』です。

 「大器晩成」「柔よく剛を制す」「上善は水のごとし」「道徳」。
 これらの言葉を知っていても、これがみな『老子道徳経』に記されていた言葉だと知っている人は少ないのではないでしょうか。
 いまでこそ「道徳」という言葉は「社会における基準やモラル、あるいはルールの厳守」などといった意味合いで使われることがほとんどですが、この言葉のもととなる『道徳経』で語られる意味は、それとは異なります。

 「老子」は、紀元前六~五世紀の古代中国にいたと伝えられる東洋哲学の巨人ですが、実のところ、彼が実在した事を明確に示す証拠は、いまのところ何ひとつ見つかっていません。
 彼の人物像が記された最も古い記述は、紀元前一〇〇年頃、司馬遷によって書かれた『史記』という歴史書にあるのですが、当時から既に老子は正体不明の伝説の人物として語られており、「この人かも」とその可能性を示された人物も三人いたりします。
 歴史家の見解もさまざまで、この三人の内の誰かという人もいれば、複数の歴史上の人物をモデルに作りあげられた創作とする説や、単に神話上の人物とみる意見もあります。
 また、この「老子」の二文字も「偉大な先生」といったニュアンスの尊称で、名前ではありません。
 そんな、謎多き人物が「道・タオ(存在の本質)」と「徳・テー(愛の本質)」について書き残したとされる書物が「老子道徳経(もしくは単に『老子』)」です。

 そこに残され代々書き継がれてきた言葉には、二十一世紀を生きる僕たちにとっても、深く突き刺さるものがあります。いえ、この時代だからこそ、余計に考えさせられるのです。
 こんなにも生活環境が改善されているのに、私たちが抱えている「満たされなさ」は、まるで無くなっていないじゃないか、と。
 社会がこれほどに便利になっても、快適な環境を作り上げても、豊かになっても、知識が増えても、医療が向上し寿命が伸びても、私たちは日々さまざまなストレスや不平不満を感じながら生きています。
 もちろん、「そういった不満や不便が感じられるからこそ、文明は発達してきたのではないか」などといったご意見もあるでしょうが、それにしてもこれほど多くの方が自殺していく社会はとても健全であるとは言えません。
 なぜ、いまだに私たちの人生は苦悩に溢れているのか。それはひとえに私たちが「幸せ」を求める方向を見誤っているからではないでしょうか。

 老子は二五〇〇年も前から、私たちに根付いてしまっている誤解やさまざまな混乱、思い込みを非常に簡潔な言葉で紐解き、本当の「幸せ」に気づくための導きを残してくれていました。

 たくさんの方々に、老子の魅力を知って欲しい。そして、その言葉の先に示された世界に触れてみて欲しい。そんな思いから、できるだけやさしく、楽しんで読み進めていただけるよう言葉を選びながら意訳を進めたのが、新刊「マスターからの手紙 超訳『老子道徳経』」です。

 老子に関心のある方だけに限らず、人生に疲れてしまった方や、「なんだか小難しくて理解できなさそう」「面白くなさそう」「何の役に立つのかわからない」などといった印象を持たれている皆様にも、ぜひご一読いただきたいと思っています。

小学館
2019年4月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

小学館

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