その時点では最善だった。自己肯定感を高めて「後悔」はプラスに転化する

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その時点では最善だった。自己肯定感を高めて「後悔」はプラスに転化する

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

きょうご紹介したいのは、『後悔しないコツ──心がいつも前を向く95のことば』(植西 聰著、自由国民社)。

これまでに『対人力のコツ』『やる気のコツ』『逆境力のコツ』など「コツ」シリーズを出してきた著者が今回テーマにしているのは、タイトルからもわかるとおり「後悔」です。

著者は、なにかを後悔すること自体は、必ずしも悪いことではないと主張しています。後悔することで自分の言動を反省し、その経験を生かしながら成長に結びつけていけるのなら、決して悪いことではないということ。

問題は、後悔の念にいつまでも心をとらわれ、後悔を長く引きずってしまうことだというのです。

言動を「なかったこと」にしない

後悔という感情は、心のエネルギーを奪っていきます。 前向きに生きる意欲をどんどん奪っていきます。

ですから、いつまでも後悔の念に心を奪われていると、元気がなくなって、表情が暗くなり、そして悲観的なことばかり考えてしまうようになるのです。

そうならないためには、後悔することがあっても、どこかでその後悔の感情を上手に吹っ切っていくことが大切になります。

後悔を引きずってしまう人は、自分自身に対して否定的なことを考えてしまいがち。そして自分の言動を「なかったこと」にしたいと考えるもの。

しかし、それは不可能なことでもあります。そのため、それらを肯定的にとらえなおすほうがいいと著者は言うのです。

あのとき、私は最善のことをしたのだ」「あの状況下では、あれが正しい判断だった」というように肯定的にとらえなおすことができれば、自分を否定することもなくなるということ。

そうすれば、失敗を次のチャンスに生かしていけるようになるというわけです。

そのように物事を肯定的かつ楽天的に考えられる人は、「後悔する」という経験を軸として人間的に成長していけるはず。

そこで本書では、そうした「後悔の吹っ切り方」について、さまざまな角度から言及しているのです。

きょうは第2章「『その時点では最善だった』と考えてみる」のなかから、いくつかのポイントをクローズアップしてみることにしましょう。

「私は賢い判断をした」「正しい行動をした」という信念を持つ

「愚かな判断をしてしまった」「間違った行動をしてしまった」などと後悔することは、誰にでもあるもの。

しかし、後悔というネガティブな感情に心をとらわれている限り、前向きに力強く生きていく意欲がわき上がってくるはずもありません

その場に立ち止まったまま、くよくよ悩み続けるしかなくなってしまうのです。

そこで、どこかのタイミングで意識の持ち方を変える必要があるわけです。

後悔するというのは、「愚かな判断をした」「間違った行動をした」ということ。

しかし、それは結果的にいま思わしくない状況にあるからそう感じるだけの話。

判断した時点、行動した時点においては、「これがもっとも賢い判断だ」「これがもっとも正しい行動だ」と信じていたはずです。

いいかえれば、そのときの判断や行動に間違いはなかったのです。ただ単に、「いい結果が出なかった」というだけ。

したがって、「愚かだった」「間違った」と、自分の能力や人間性を否定的に考えるのではなく、「あの時点では、賢い判断だった。正しい行動だった。それ以外の選択はなかった」と、もう少し肯定的に物事を考えるほうがいいと思います。

そのように考えることによって、自分のした判断や行動に100パーセントの自信を持つことが可能なのです。(39ページより)

自分への自信、自分への信頼があれば、後悔の感情を吹っ切り、苦しい状況から抜け出すことができるはず。

その結果、前向きな気持ちで、未来へ向かって生きていくことができるということです。(38ページより)

肯定的な言葉を使って、自己肯定感を高める

自己肯定感」とは、ことばどおりに言えば、自分を肯定的にとらえる感情のこと。

「私は、賢い判断ができる人間だ」「私は、正しい行動をする人間だ」というように、自分自身への信頼感を持てているという意味です。

そして自己肯定感が高い人は、「柔軟なものの考え方ができる」「多少のことではめげず、立ちなおるのも早い」「粘り強く物事を進めていくことができる」「明るく、社交的である」といった長所があるのだそうです。

一方、自己肯定感が低い人は、「自信がなく、萎縮しやすい」「ちょっとしたことで、落ち込んでしまう」「後悔の感情を引きずってしまいやすい」「自分の殻に閉じこもりがちである」といった性格があるもの。

そういう意味では、自己肯定感を高くすることが、幸せな人生、充実した人生、そして「後悔しない生き方」につながっていくということなのでしょう。

では、どのようにして自己肯定感を高めていけばいいのか? 著者はそのための方法のひとつとして、「肯定的なことばを使う」ことを挙げています。

たとえば、自分が下した判断や行動が悪い結果を招いてしまったとします。

そんなとき、「どうしてこんなことになってしまったんだ。後悔しても後悔しきれない」などと、自分で自分を否定するような言葉を思い浮かべてしまったら?

当然、自己肯定感が低くなってしまうことになるでしょう。

その結果、後悔をいつまでも引きずってしまうことになるかもしれません。

そんなときは、「いや、あの時点で私は間違っていなかった。あれ以外の方法はなかった」と、肯定的なことばを使って自分に言い聞かせるべき。

そうすることで自己肯定感が高まり、後悔を吹っ切ることができるわけです。(42ページより)

「決断しなくてよかった」と考える

骨董品が好きな男性がいます。 彼は江戸時代の焼き物や、昔の有名画家が描いた絵や、古い時代の家具などを集めるのが好きなのです。

ある日、彼はある骨董品店に入りました。 そこで一枚の絵を見つけました。それは、明治時代の有名な日本画家が描いた絵でした。彼は、その絵をたいへん気に入りました。

しかし、その絵は、とても高価でした。彼は購入したい気持ちはありましたが、「少し考えてみてから決めよう」と考え、その日は購入せずに帰りました。

後日、とうとう彼は「やっぱりあの絵を買おう」と決心して、ふたたび先日の骨董品店を訪れました。 しかし、買おうと思っていた絵は、すでに売れてしまっていたのです。 (48~49ページより)

このような場合、「最初にその絵を見たときに、なぜ思い切って買わなかったのだろう」と後悔するのではないでしょうか?

もしかしたら、その後悔の感情をいつまでも引きずってしまうことになるかもしれません。

とはいえ、いくら後悔しても遅いのです。上手に気持ちを切り替えるしかないということ。同じようなケースはいろいろあるでしょうが、つまりそんなときには、意識の持ち方を変えてみる必要があるわけです。

最初に絵を見たとき、その絵を買って帰らなかったという判断は、決して間違っていたのではなく、それが「その時点での最良の判断だった」と考えなおす必要があるということ。

逆に、もしそのときに絵を買ったら、あとから「こんな絵、買わなければよかった」と後悔することになったかもしれません。

その絵が実は偽物だったということもあるかもしれません。

だから、「買わなくてよかった」と考えるべきだということ。そう考えれば、上手に割り切ることができるのです。(48ページより)

「結婚した後悔」「結婚しなかった後悔」、どちらが大きいか?

ある女性は、弁護士として活躍しています。 また、弁護士という仕事を一生続けていきたいと考えています。

そして、去年までは、弁護士という仕事に没頭するために、結婚はせずに独身を通そうと考えていました。

しかし、去年、ある男性から情熱的に求婚されて、その男性と結婚しました。

もちろん「結婚しても、弁護士の仕事を続ける」ということを彼にも了承してもらって、今でも彼女は仕事をしています。 しかし結婚後は、やはり、家でやらなければならない雑用も多くなり、弁護士の仕事に没頭できなくなりました。

そのために、今になって、「結婚すべきではなかったのではないか」と後悔するようになっているのです。しかしながら、結婚した男性への愛情も深まり、離婚はしたくない気持ちもあります。(52~53ページより)

このような場合も、意識の持ち方を切り替え、後悔を吹っ切るのがよいと著者は言います。

相手を愛し離婚するつもりもないのなら、後悔を吹っ切るしかないということ。

ここで著者は、デンマークの哲学者であるキルケゴール(19世紀)の、「結婚したまえ、君は後悔するだろう。結婚しないでいたまえ、君は後悔するだろう」ということばを引用しています。

上記の事例の女性は、結婚したことを後悔する気持ちを持っているわけです。

しかし、もし結婚していなかったとすれば、キルケゴールのことばどおり、「あのとき、結婚していればよかった」と激しく後悔することになったかもしれません。

その場合、「結婚しなかった後悔」は、「結婚した後悔」より何倍も大きいことになります。そういう意味においては、結婚したときの判断は正しかったわけです。

そのように考えて後悔の感情を吹っ切ることが、なにより大切だということ。(52ページより)

過去を肯定し、未来に明るい希望を持つようにする

ある男性は、とても仕事熱心でした。 やりがいのある地位に就き、やりがいのある仕事を与えられて、朝早くから夜遅くまで日々精力的に仕事をこなしていたのです。

しかし、過労がたたって、大きな病気になってしまったのです。 そのために長期に渡って入院生活を多くることになりました。

今、彼は、「病気になってしまって、旅行にも行けない。スポーツもできない。こうなるんだったら、元気だった頃に、仕事ばかりに明け暮れてばかりいないで、もっとプライベートの生活を楽しむ時間を作っておけばよかった」と後悔しているのです。 (56ページより)

この男性のように、重い病気になってから「人生をもっと楽しんでおけばよかった」と後悔する人もいるはず。

しかし、このような場合、過去を肯定的に受け入れる意識を持つことが大切だと著者。

大切なのは、「『仕事が忙しいから、旅行やスポーツを楽しむ時間がない。だから旅行に行けない。スポーツもやれない』という、そのときの自分の判断は最善だった」と、自分で肯定的に納得すること。

自分の判断は正しく、別の選択の余地はなかった」と考えることで、後悔を吹っ切れるわけです。

そうすれば、これからの人生について「この病気が治ったら、仕事ばかりに明け暮れるのではなく、旅行やスポーツを大いに楽しもう」という前向きな気持ちを持つことができ、その結果、明るい希望が生まれるはずだから。(56ページより)

「後悔する」ということばにはネガティブな印象がありますが、それも考え方次第。自分次第で、そのような感情をプラスに転化できるということを本書は教えてくれます。

というよりも、いつの間にか忘れかけていたことを、改めて思い出させてくれるといったほうが近いかもしれません。

Photo: 印南敦史

Source: 自由国民社

メディアジーン lifehacker
2019年4月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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