ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短篇29…ジェイ・ルービン編 新潮社

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ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短篇29

『ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短篇29』

著者
ジェイ・ルービン [編集]/村上 春樹 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103534365
発売日
2019/02/27
価格
3,960円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短篇29…ジェイ・ルービン編 新潮社

[レビュアー] 宮下志朗(仏文学者・放送大特任教授)

 フランスの田舎町の書店で日本文学の翻訳が平積みになっているのを見て驚いたことがある。今では、日本文学もグローバルな存在となった。本書の原典も、英訳による日本文学アンソロジーである。とはいえ、定番を外したユニークな視点で作品が選ばれている。

 漱石、芥川、そして村上春樹の訳者であるJ・ルービンは、スタンダードな名作を時系列に並べることはせず、「主題」「作風」により七つの枠を設定して、個性的なセレクションを行った。「忠実なる戦士」枠の鴎外「興津弥五右衛門の遺書」、三島「憂国」は予想どおりとしても、「恐怖」枠の内田百●「件(くだん)」、澤西祐典「砂糖で満ちてゆく」はマニアックな選択だ。ちなみに後者は、架空の病気「全身性糖化症」が進行する母を看取(みと)るというシュールな話。「近代的生活、その他のナンセンス」枠には、別役実「工場のある街」、星新一「肩の上の秘書」など、愉(たの)しくもこわい作品が入っている。序文で村上春樹も述べるように、「そんな作品が存在していることすら知らなかった」短篇(たんぺん)がいくつも収められていて、新鮮な驚きが味わえる。そういえば『春雨物語』の一篇を使った円地文子「二世の縁 拾遺」には、上田秋成の原典と現代語の語り下ろしが出てくる。どのように訳し分けているのか、英訳も読んでみたい。

 最終枠は「災厄 天災及び人災」で、関東大震災(芥川)から始まり、原爆、戦後の日本を経て、阪神・淡路大震災(村上「UFOが釧路に降りる」)、東日本大震災(佐伯一麦、松田青子、佐藤友哉)までの八篇と、もっとも比重が大きい。このような短篇集成の形に、われわれは日本の近代・現代の凝縮された姿を見るべきかもしれない。最後の短篇は、山姥(やまんば)小説『デンデラ』の作者(佐藤)によるいじわるな寓話(ぐうわ)「今まで通り」。「だから、地獄がひろがったのを知ったとき、私はとにかくほっとした」という結末に、いかに反応すればいいのか?

 ●は「門」の中に「月」

読売新聞
2019年3月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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