地面師…森功著

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地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団

『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』

著者
森 功 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784065134122
発売日
2018/12/06
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

地面師…森功著

[レビュアー] 森健(ジャーナリスト)

 一昨年夏、積水ハウスが土地取引で55億5千万円という巨額の詐欺被害に遭っていたことが発覚した。東京・西五反田の旅館があった土地。それを地主になりすまし、勝手に積水ハウスに売却していた集団がいた。「地面師」と呼ばれる詐欺集団だ。本書は積水ハウス事件など7件の地面師事件がどんな手口だったのかをノンフィクション作家が明かした。

 最初の章が積水ハウス事件だ。地主の高齢女性が旅館経営をやめ、体調を崩して入院したのが同年2月。「高齢の地主の変化を見逃さなかった」彼らはその少し前から動き出した。最初の一歩は旅館脇にある月極(ぎ)め駐車場の賃貸契約。契約を交わせば、女性の人相風体から、印鑑証明や住民票などの個人情報までを得ることができるためだ。それを元に地面師たちは、ある法人を間に挟むなど複雑な手順を踏んで、積水ハウスへの売却へと進んでいく。複雑にするのは、金や関係者の流れをすぐにつかませないためだ。

 呆(あき)れつつも感心してしまうのは、地面師たちの役割分担だ。犯行計画を立てる主犯格のボス、なりすまし役を探したり、演技指導したりする手配師、パスポートなどの書類を偽造する印刷屋、振込口座を用意する口座屋や法的手続きを担う司法書士などの法律屋……。複数の事件で重なっている大物もいる。

 取材は多面的だ。公的記録はもちろん、その界隈(かいわい)の有象無象の不動産関係者、さらには地面師当人にも接触して実相を明らかにしていく。単なる事件簿ではなく、どんな人物が関わり、どういう手順を踏んでいったのか。ひどい実態を生々しく理解できるのが本書の醍醐(だいご)味だろう。

 地面師問題は土地を売られた人の話で終わらない。たとえば売られた土地にマンションが建てられ、それを数千万円で購入した人もいる。すると権利問題は残ったままなのだ。

 高齢者が増え、所有権問題も議論される現在、地面師は多くの読者にとっても遠い話ではないだろう。

 ◇もり・いさお=1961年生まれ。『悪だくみ』で大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞を受賞。

読売新聞
2019年3月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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