第三帝国の到来 上・下…リチャード・J・エヴァンズ著 白水社

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第三帝国の到来(上)

『第三帝国の到来(上)』

著者
リチャード・J・エヴァンズ [著]/大木 毅 [監修]/山本 孝二 [訳]
出版社
白水社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784560096642
発売日
2018/11/28
価格
4,536円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

第三帝国の到来(下)

『第三帝国の到来(下)』

著者
リチャード・J・エヴァンズ [著]/大木 毅 [監修]/山本 孝二 [訳]
出版社
白水社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784560096659
発売日
2018/11/28
価格
4,536円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

第三帝国の到来 上・下…リチャード・J・エヴァンズ著 白水社

[レビュアー] 藤原辰史(農業史研究者)

 著者は、現在、ナチス研究の最高到達点に立つ歴史家の一人である。ナチス誕生の基盤をビスマルクまで遡り、ヒトラーが首相に任命される1933年までを描いた一般向けの歴史書、この世界的ベストセラーがついに邦訳された。

 民主主義の否定、女性の政治参加の否定、憲法軽視、国会軽視、労働組合の解体、人権蹂躙(じゅうりん)、言論弾圧、他民族へのヘイトクライム、他政党の禁止、街頭での殴打、拷問、虐待、そして殺人。ナチスが断行したこれらの行為は同時代の諸国でもみられたが、どこよりも激烈だったのは、ドイツ固有の反自由・反民主・反ユダヤの歴史があったからだ、というのが著者の立場だ。

 民衆の他民族憎悪を政治家が利用することや国家による人権の蹂躙は第2帝政期も吹き荒れた。だがやはり、第1次世界大戦後のヴァイマール共和国の不安定さは特筆に値すると著者は主張する。敗北後の革命の挫折、天文学的なインフレ、仏・ベルギー軍によるルール占領、世界恐慌による暮らしの劣化と破壊は、民衆の心に猜疑心(さいぎしん)と不安と希望喪失をもたらした。

 それに加えて、ナチ党の力に対する他党政治家の甘すぎる観測、司法の機能不全、そして大統領緊急令の乱発による法治の衰弱によって、ナチ党や共産党の暴力組織が衝突を繰り返し、次々に若者が負傷し死んでいった。タガが外れ、不信と心の荒(すさ)みが感染していったのである。

 ヒトラーは、貧しい出自であることから語り始め、大げさな身振りと激しい言葉でユダヤ人と社会民主党や共産党を罵倒し、民衆の不安につけ込んで、彼らの殴打と殺害を是認した。

 だが、政権獲得前のナチ党の得票率は最大でも37・4%だった。つまり、ナチスに違和感を抱く有権者の多くは、他方で、ナチスが「敵」の書物を燃やそうが、隣人が罵倒され殴打されようが、それを阻止も批判もできず傍観しつづけた。非寛容、無関心、立憲主義の壊廃。そんな時代こそ、本書を熟読したい。大木毅監修。

読売新聞
2019年3月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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