「承認欲求」の呪縛…太田肇著 新潮新書

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「承認欲求」の呪縛

『「承認欲求」の呪縛』

著者
太田 肇 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784106108006
発売日
2019/02/15
価格
842円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

「承認欲求」の呪縛…太田肇著 新潮新書

[レビュアー] 森健(ジャーナリスト)

 外食の現場で食品にいたずらをして、動画をSNSに投稿。非難を浴びる行為で理解に苦しむが、背景に「認められたい」という欲求があると聞くと、腑(ふ)に落ちる部分もある。

 本書は組織論の研究者が、昨今流布する「承認欲求」という心理を分析。特にその裏側に潜む問題の指摘とその対処法までを記したものだ。

 承認欲求とは「自分が価値のある存在だと認めたい」欲求だという。これと関係の深い感覚が「やればできる」という自己効力感だ。他者からほめられれば気分がいいし、頑張って成功すれば自信もつく。これは承認欲求に基づくよい面の効能だ。

 一方で、承認欲求は「病」にもなる。認められない時には、羨望や嫉妬、意地や面子(メンツ)と屈折した形であらわれ、認められようとする時には他人に迷惑をかけることもある。その一つが冒頭のSNS行為だ。「重症」化すると、世間の注目を集めるため殺人事件などに発展する可能性もあると著者は言う。

 承認欲求に囚(とら)われ、期待がプレッシャーに変わると、それが「呪縛」となる。著者は、薬物所持で逮捕された野球選手や注目されつつも反則行為で転落したボクシング選手を挙げ、「期待に応えようとするまっすぐな性格が災いした」と指摘する。

 呪縛は一般の職場でも起こる。過労死や過労自殺は上司など組織の要求に応えようとすることで起き、利益の水増しやデータの改ざんという不正行為も周囲に対する呪縛だ。

 では、呪縛から逃れるにはどうすればよいか。手法の一つに、期待を自分の能力に見合った水準に下げることを挙げる。「プレッシャーを与える社会は、やはりおかしい」という言葉には頷(うなず)かざるをえない。

 承認欲求の呪縛は日本特有で「日本の風土病」と著者は呼ぶ。ただ、ネットの広がりなどで、誰もが認められたい昨今、その風潮は一層高まっている気もする。「病」を悪化させないためにはどうしたらいいのか。読みながら考えこんでしまった。

読売新聞
2019年3月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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