新記号論…石田英敬、東浩紀著 ゲンロン

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新記号論 脳とメディアが出会うとき

『新記号論 脳とメディアが出会うとき』

著者
石田 英敬 [著]/東 浩紀 [著]
出版社
ゲンロン
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784907188306
発売日
2019/03/04
価格
3,024円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

新記号論…石田英敬、東浩紀著 ゲンロン

[レビュアー] 山内志朗(倫理学者・慶応大教授)

 脱帽して読むべし! 名著である。絶叫系ジェットコースターに乗せられた感じで読んだ。記号論、情報、脳科学、情動、精神分析、消費社会論など盛り沢山(だくさん)の内容が取り上げられている。対談が元になっているので、内容は高度だが読みやすい。

 楽しい仕掛けがいっぱいだ。「ヒトはみな同じ文字を書いている」、何だこれはポンコツか、と思わせる。ところがそうではない。どの言語でも、文字を構成要素にまで分解すると3画以内の要素から構成され、それらの要素は世界共通で、登場頻度を調べるとどの言語も等しいというのだ。目からウロコ300枚である。

 歴史を遡り、バロック記号論、現代記号論まで辿(たど)り、今こそ新しい学たる「新記号論」が必要なのだという。納得させられる。

 東浩紀さん、石田英敬さん、両方面白いのだが、特に石田さんには「奇想の怪学者」の名を献じたいほど。

 面白い指摘は数えきれない。現代社会において、人々は生産者としてはマゾ、消費者としてはサドとして生活しているという。なるほどクレーマーの消費者はサドの典型だ。ところが、SNSでは、知らず知らずデジタル労働をさせられていて、情報をミツバチのように生み出させられる、搾取される生産者となっている。やせ細った情報ミツバチ状態から抜け出す方法として情報記号論の試みが示されている。

 文明論としても面白い。消費資本主義においては、情報を消費することが商品であり、それを動かす原動力が集団的で情動的でメディア的な無意識なのだという。フロイトの精神分析が新鮮に説明される。

 哲学史からの話題も沢山含まれる。スピノザ、ライプニッツなど古典も鮮やかに整理されているし現代と直結する論点の取り出しは斬新だ。

 人文学と自然科学を「一般文字学」という枠組みで結びつけようという熱い思いが噴出している。哲学が新しいぞ。知的興奮に満ちた本だ。爽快な本だ。

読売新聞
2019年3月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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