<東北の本棚>季節季節暮らしに恵み

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貞山堀に風そよぐ

『貞山堀に風そよぐ』

著者
大和田雅人 [著]
出版社
河北新報社
ISBN
9784873413839
発売日
2019/03/30
価格
1,650円(税込)

<東北の本棚>季節季節暮らしに恵み

[レビュアー] 河北新報

 貞山堀は仙台湾の沿岸部、名取-塩釜市間を南北に貫く全長36キロの日本一長い運河だ。江戸時代に開削、水運の要となり、以来、運河周辺に住む人々の暮らしに恵みを与えてきた。集落を訪ね歩き、歴史と文化を再発掘する。
 東日本大震災で被災した仙台市の荒浜地区、震災前は数十軒が漁業に関わっていたが、現在漁協に所属している船は12隻。浜を行くと80歳になるという漁師に会った。「荒浜はいい海だった。季節季節の魚が何度も押し寄せてきた」と言う。イワシやカレイを、船だまりで1カ所に集めて人数割りした。「板子一枚下は地獄」。漁獲をみんなで等分したのは、船が遭難しそうになった時にみんなで助け合うための知恵でもあった。魚は、農家の人たちとコメや野菜と物々交換だ。
 「講」を結んで、葬儀や結婚式など人手がいるときに助け合う。子宝祈願で小牛田(宮城県美里町)に詣でる女性たちの集まりが山の神講、山形県の出羽三山に詣でるのが三山講だ。百万都市・仙台の近郊で、こういった古くからの風習、習慣が守られてきたのは驚きだ。震災で浜を追われるように去ったが、人々は帰還を念じて黄色いハンカチを立てた。2018年夏には、お盆の灯籠流しを復活させた。
 海岸林を暮らしに生かしてきた新浜地区、井土地区ではカヤを屋根ふきに利用、生活資金にしていた。貞山堀と人々の生活が、長い歳月をかけて共生していた姿を生き生きした筆致で描写している。そこには、短兵急に結論を急ぎ、住民との軋轢(あつれき)を生んだ過去の開発計画、震災復興の在り方に警鐘を鳴らしているようにも読み取れる。
 河北新報出版センター022(214)3811=1620円。

河北新報
2019年4月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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