正義ってなに? 地味でも堅苦しくもない「使える」倫理学『ふだんづかいの倫理学』

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ふだんづかいの倫理学

『ふだんづかいの倫理学』

著者
平尾昌宏 [著]
出版社
晶文社
ISBN
9784794970381
発売日
2019/03/12
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

地味でも堅苦しくもない「使える」倫理学『ふだんづかいの倫理学』

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 倫理学はたぶん、どこの大学でも人気科目になりにくい。地味だし、堅苦しそうだから。でも著者は長らく倫理学を教えてきて、この本を見るかぎり凄腕である。初心者のもつ先入観をきれいにほぐしてしまう。倫理なんて人によって違うから議論にならないと思う人もいれば、倫理学は古くさくて自分には縁がないと思う人もいるわけだが、そんなイメージはくつがえされる。

 人によって倫理の中身が違うからこそ、それが互いに衝突したときにどう折り合うかを考えなければならないし、じつはわれわれは毎日、倫理的な選択を(無意識に)繰り返しながら生きている。この本はいわば「超入門篇」なので、倫理学が必要になる場面や倫理学で対処できる場面を、身近なフィクションを例にとって示している。「ゴッドファーザー」や「デスノート」だけでなく、最近はやりのハーレムもののマンガだって倫理学の材料だ。これは興味をもたざるを得ない。

 正義とはなにかという問いに、現代人はついニヒルに「正義なんてものは死んだ」とかなんとか答えてしまいがちだけれど、この本によれば正義とはバランスのこと。不当に苦しんでいる人や不当な利益を得た人を見たら、人はバランスが失われたと感じ、釣り合いをとりたくなる。それが正義感だというわけ。なるほど、たとえ正義の旗をかかげていても、相手かまわず攻撃する人や、卑劣な手段で攻撃する人は、正義の人とは見なされませんね。それはバランスをとる行為ではないからだ。

 倫理の基本原理を12パターンに分類し、現在自分が直面する問題はどの原理にかかわるものなのかを判断しやすくする手法など、まさに「使える」倫理学。もちろん、簡易なチャートに飽き足らない人にはさらに奥に進む通路も教えてくれる。これは最強の入門書であると同時に、読み物として単純に楽しみたい人にも強力におすすめできる本だ。

新潮社 週刊新潮
2019年4月18日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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