『フクロウの家』
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“フクロウの感情を伝えたい”シアトル在住の著者による観察日記『フクロウの家』
[レビュアー] 大竹昭子(作家)
平べったい顔は集音のためで、前方の音を聴くのに最適。でも、背後の音を集めるにはどうするかというと、首を真後ろに回転させる。つまり、あの人面似の容姿にも、よく回る首にも意味があると知り、フクロウが関心領域に入ってきたのは最近のこと。フクロウ初心者にとってはありがたい本だった。
初めて持った家は自然の豊かなシアトル郊外にあったという。あるとき嵐で巣を失ったニシアメリカオオコノハズクという長い名前の雄フクロウに出会い、庭に巣箱を作ったところ、幸いにも入居してくれる。ホーホーホーというリズミカルな声が夜通し聞こえ、二日後ついに返事があり、雌フクロウが飛んできた。
「決定権を持っているのは雌である。どうしても人間の恋愛における展開と比べてしまう」
カラスの大群に囲まれると上から物を落下させて撃退したり、卵を抱いているときに雄が家でのんびりしていると雌が体当たりしてエサを取りに行かせるなど、近くにいるからこそ観察できるシーンの数々。その年の夏には雛たちは巣立ち、一家はいなくなるが、その後も他のフクロウ家族がその家を使うことが二十五年近くつづき、およそ五十羽の雛が巣立っていったのだ。
画家で彫刻もする著者は、フクロウを主題にした作品を数多く創っている。それは外見やディテール以上に彼らの感情を伝えたいからだと書く。「感情」という言葉は擬人化のにおいがするが、そうではない。
「感覚の鋭い動物はみなそうだが、フクロウの姿勢や仕草も、そのときどきの感情を反映している」
鳥類のなかで最も「人間らしく見える」フクロウを観察しながら彼は「フクロウであること」とはどういうことかを想像し、ペンを走らせ、鑿(のみ)をふるう。その成果である細密画がページのそこかしこからフクロウの世界に誘ってくれる。芸術と観察の見事な合体だ。