<東北の本棚>慰霊碑を巡る謎に迫る

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最後の大空のサムライ

『最後の大空のサムライ』

著者
倉田耕一 [著]
出版社
さくら舎
ISBN
9784865811896
発売日
2019/03/07
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>慰霊碑を巡る謎に迫る

[レビュアー] 河北新報

 第2次世界大戦中、訓練中の飛行機事故で落命した旧日本海軍士官候補生の殉職碑が、茨城県内に2基残る。戦時下の日本では慰霊碑などの建立は難しかったという。秋田市出身の元新聞記者が、碑を巡る謎や戦時下に散った若者たちの素顔に迫る。
 取り上げるのは、1941年12月と翌42年3月に起きた海軍機墜落事故の殉職碑。亡くなったのはいずれも第8期海軍飛行科予備学生だった。
 飛行科予備学生の制度は、航空戦力を重視した海軍が34年に創設。41年入隊の第8期には全国から43人の学生が集まった。
 当時、戦死は名誉だったが、訓練中の殉職は技量が未熟だったなどとみなされた。殉職碑の存在に疑問を抱いた著者は、碑の近所に住む人や亡くなった予備学生の同期の遺族らへの取材を重ね、建碑の発起人や碑に刻まれた和歌を詠んだ女性の身元を突き止める。
 闇に埋もれた歴史を解き明かすミステリー仕立ての本書は、友情や敬意を大事にした大正時代生まれの人々の心意気にも脚光を当てる。著者はあとがきで「『大正人』の心の優しさ、戦時下の時代の空気のようなものを何とか記録に残したい」と思いを語っている。
 著者は1952年生まれの元産経新聞記者で、茨城県土浦市在住。
 さくら舎03(5211)6533=1728円。

河北新報
2019年4月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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