<東北の本棚>加害者との関係性問う
[レビュアー] 河北新報
「家庭を持って初めて一人前」。日本でよく言われる言葉だが、著者はこうした一般論に疑問を呈する。犯罪加害者の家族から寄せられた1000件以上の相談内容から見えたのは、家族という「呪縛」が生む不幸の連鎖だった。
理香子(仮名、40代)の夫が電車内を盗撮した疑いで警察に呼び出されたのは結婚式の2日前だった。その後も女子大生の部屋をのぞくなど犯行を重ねた。心労による流産を経て理香子が2人目の子どもを妊娠した時、今度は女子トイレを盗撮。理香子は再び流産し、ついに離婚を決意した。
尚美(同、30代)の元同僚の夫は尚美と親友だった職場の後輩に性的暴行を働いた。もともとその後輩が好きで、彼女に近付こうと尚美と結婚したらしい。夫は実刑判決を受けた。が、尚美は離婚しない。夕飯には帰宅し、買い物や旅行にも連れて行ってくれる「理想の夫」なのだという。
盗撮、痴漢、暴力など、さまざまな犯罪の経過が赤裸々につづられる。犯行に及ぶ人物は決して特殊でなく、高学歴で社会的成功を収めたエリートも多い。著者は背後に潜む「家族関係」に注目する。
例えば、とうに離婚していい状況なのに夫の更正を信じて我慢し続ける妻がいる。「よくできた妻」ともいわれるが、むしろ家族の許容が加害行為を助長すると指弾。世間体を気にし「普通の家族」であろうとする価値観こそ危ういのだ。幸せとは何か。そんな根源的な問い掛けでもある。
著者は東北大大学院法学研究科博士課程前期修了。NPO法人ワールドオープンハート(仙台市)理事長として犯罪加害者の家族を支援している。
幻冬舎03(5411)6222=864円。