くわしすぎる教育勅語…高橋陽一著 太郎次郎社エディタス

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くわしすぎる教育勅語

『くわしすぎる教育勅語』

著者
高橋 陽一 [著]
出版社
太郎次郎社エディタス
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784811808321
発売日
2019/02/15
価格
2,160円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

くわしすぎる教育勅語…高橋陽一著 太郎次郎社エディタス

[レビュアー] 加藤徹(中国文化学者・明治大教授)

 「表紙詐欺」だ。ピンク色の背景に、おじぎするセーラー服の女子児童。「くわしすぎる」というキャッチーなタイトリング。まるで漫画本だが、重厚な研究をふまえた啓蒙(けいもう)書だ。

 「朕惟(ちんおも)フニ、我(わ)カ皇祖皇宗(こうそこうそう)、国ヲ肇(はじ)ムルコト宏遠(こうえん)ニ、徳ヲ樹(た)ツルコト深厚(しんこう)ナリ」で始まる教育勅語は、1890年、明治天皇が臣民に呼びかける勅語として出された。わずか315文字の漢文訓読体の文章だが、日本人が守るべき徳目や「天壌無窮(てんじょうむきゅう)ノ皇運(こううん)ヲ扶翼(ふよく)スヘシ」という国家的目標を説く。学校儀式と修身科の教科書を通じ、子供たちに影響を与えた。近年も、教育勅語を暗唱させる幼稚園が話題になった。

 著者は日本教育史の専門家だ。教育勅語は現在の日本国憲法に合致しないという意見をもつが、時代の思想を象徴した文章は古典として重視すべきだという考えももつ。

 本書は3部構成だ。「精読」では、教育勅語の一字一句の意味と背景を解説する。「億兆」の説明で漢文古典の下数法(十万を億、百万を兆とする)への言及がなかったり、「夫婦相和シ」の「相」を近世の候文と結びつけるなど、若干の違和感も感じるが、これほど詳しく教育勅語の本文を解説した本はまれだ。

 「始末」では歴史と背景を述べる。起草した人物とその思想、意味解釈の変遷、学校に配布された謄本をめぐる不敬事件、ドタバタ劇的な騒動の数々、今日の学校儀式にも残る影響などを、鬼気迫る詳しさで述べる。表紙のゆるいイラストは、実は、昭和の修身教科書の「サイケイレイ」の挿絵だ。最後の「考究」では、もっと知りたい人のために豊富な資料を紹介する。

 批判論であれ肯定論であれ、議論は原典の精読から出発すべきだ。新元号「令和」の発表後、出典である原漢文を読まずに意見や感想を述べる人が、なんと多いことか。本書は、原典を精読する面白さ、それをふまえて考察する大切さを、あらためて教えてくれる。

読売新聞
2019年3月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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