在留外国人との共存に新元号が令する和

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ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実

『ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実』

著者
望月 優大 [著]
出版社
講談社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784065151105
発売日
2019/03/13
価格
924円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

在留外国人との共存に新元号が令する和

[レビュアー] 小飼弾

 平成とはどんな時代であったか。読んで字のごとく、日本という国の成長が平らになった時代という実感を抱いているのは選者だけではあるまい。「失われた10年」は20年になり、30年になり、「失われたn年」という表現より先に平成自体が去ろうとしている。そんな中、倍以上の成長をとげた指標がある。非正規雇用者と在留外国人だ。2割だった非正規雇用は4割になり、100万人弱だった在留外国人は300万人に届く勢いだ。片や日本人、片や外国人であるが、この二つは同じ動きの異なる現れであることを『ふたつの日本』(望月優大)は喝破している。それは「集団が引き続き個人の力を利用しながら、同時に個人の生の安定を保障するための負担からは自らを解き放とうとする運動」なのだと。

 それで国や企業といった集団が成長したというのであればまだ救いもあるが、結果はご覧の通り。そして平成経済が続いた先にあるのは、今日の移民先としての日本ではなく、昔日のように移民元となる日本である。外国人を都合のいい人材としか考えない国に唯一期待できた金銭すら他の国に劣るのであれば来るまでもないことを証明したのは、いみじくも日本人移民の子孫たる日系人だったことも本書が指摘する通りだ。

「今、目の前にふたつの道がある―撤退ではなく関与の方へ、周縁化ではなく包摂の方へ、そして排除ではなく連帯の方へ」。これこそが、新元号が令する和ではないか。

新潮社 週刊新潮
2019年4月25日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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