渡来人と帰化人 田中史生著

レビュー

7
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渡来人と帰化人

『渡来人と帰化人』

著者
田中 史生 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784047036321
発売日
2019/02/22
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

渡来人(とらいじん)と帰化人(きかじん) 田中史生(ふみお)著

[レビュアー] 三浦佑之(立正大教授)

◆古代東アジアの複雑な国際交流

[評]三浦佑之(古典・伝承文学研究者)

 研究史には疎いが、古代史研究のなかから帰化人ということばが消えて、渡来人へと移っていった時代があった。私も、たまに渡来人という語を用いることはあるが、帰化人ということばを使った記憶はない。金達寿(キムダルス)の文章を読んでいたりしたから、それが当然だと思っていた。「帰化」という、天皇になびき従って寄りつくという意味の政治的な用語を避け、「渡来」というニュートラルな語が学術語として使われるようになったというのが、私の大雑把(おおざっぱ)な認識であった。

 本書によれば、渡来という語を用いるようになっても国家を基準にして考えようとする立場にあまり変化はなく、内実はたいして変わらなかったという。たしかに、国家史・王権史といった視座をとる限り、そうかもしれない。そして、そうした従来の思考を転換させるために、著者は、帰化と渡来との違いを明確にし、そこから、東アジアにおける人々の移動を読みなおしてみせた。それが本書だ。そこから見えてきたのは、当然のことながら、多様な、人々の移動のさまである。

 倭国(わこく)をとりまく国際情勢のなかで、文字技能者をはじめさまざまな技術者が移動する。移住する場合もあれば、そうでない場合もある。友好と対立が入り交じる国際関係のなかで、百済と結ぶ王権とは別に、新羅と親密な関係をもつ葛城(かずらき)氏のような存在もいる。現代のわれわれが考える以上に、古代の国際交流は流動的で複雑だったのである。

 本来的な意味での帰化人が誕生するのは、百済滅亡によって生じた亡命百済人が大量に渡来したことによるという説明は、わかりやすい。よい国だから来たとか、求めて来たとかいうのではなく、あらゆる階層の人々が、海を越えて渡ってきたのである。

 それは、現在の世界のあちこちで生じている、難民問題とも通底しているわけで、本書で論じられているのは、古代史の問題というだけではすまない。また私は、国家を介さない人々の移動、たとえば渡来商人などの存在に大いに興味をそそられた。

(角川選書・1836円)

1967年生まれ。早稲田大教授。著書『国際交易の古代列島』など。

◆もう1冊

石井公成(こうせい)著『東アジア仏教史』(岩波新書)。影響を与え合った2000年を描く。

中日新聞 東京新聞
2019年4月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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