「その時その時にその場にいない人を悪者にしながらなんとかのりきっていこうじゃないか」女優・寺島しのぶと絵本作家・ヨシタケシンスケ大いに語る

対談・鼎談

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思わず考えちゃう

『思わず考えちゃう』

著者
ヨシタケ シンスケ [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103524519
発売日
2019/03/29
価格
1,100円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【『思わず考えちゃう』刊行記念対談】ヨシタケシンスケ×寺島しのぶ 考えすぎてもいいんです!

[文] 新潮社

女優・寺島しのぶさんと絵本作家・ヨシタケシンスさん
女優・寺島しのぶさんと絵本作家・ヨシタケシンスさん

考えすぎてもいいんです! まじめーな事から、世にも下らぬ事までまとめた初エッセイ集『思わず考えちゃう』を前に語る。「絵本とは?」「子育てとは?」「自由とは?」。大女優と人気絵本作家の意外な本音!

立派な親ではありません!

寺島 まさに今日、このスノードームって話(66頁)通りの事が起きたんです。

ヨシタケ 子供の口の中の水が、またペットボトルの中に戻っちゃったんですね。

寺島 そうなんですよ。息子が、葛根湯飲んで、苦いって水飲んだら、その後、ペットボトルの中がホントにスノードームになって。この本、超あるあるです。

ヨシタケ 子供っていつも、凄い量、水を戻す。それが粉薬を飲むと可視化されてびっくりして、イラストにしたんです。

寺島 ヨシタケさんは、観点がとっても面白い。こんな所を切り取るのって。そのセンスにくすぐられちゃいます。

ヨシタケ いろんな話を載せましたが、質より量で、どれか一個でも共感してくれればって感じで作った本なんです(笑)。

寺島 ヨシタケさんの絵本『りんごかもしれない』は、まず私が手に取って面白くて、子供が3歳くらいの時に買って読んだんです。

ヨシタケ あれが絵本デビュー作です。

寺島 子供って小さい時は意味がわからないでしょ。それから何年かたって、もう一回読むとわかる。最近、「僕、このかつらがいい」とか言って喜んでます。私は、本当は大人向けというか、子供相手だけじゃないところが好き。あんなお父さんがいたらいいなぁ、と。

ヨシタケ 絵本を読んだ方から、ヨシタケさん、さぞ立派なお父さんでしょうねって言われる事が多くて。いやいや、僕もああいう親になりたいなって、自分向けのファンタジーとして描いてるんですよって、言い訳してるくらいです。家ではいつも、早くしなさいしか言ってない。

寺島 わかるわー。早くしなさいは、時間が無いとよく使いますよね(笑)。ところで、このエッセイ集を読ませて頂いて、改めてヨシタケさんの本には、自由さがあっていいなと思いました。

ヨシタケ でも僕自身は、自由な子供じゃなかったんです。人一倍常識を気にするタイプで。こんな事しちゃダメなんじゃないかとか、こんな事やったら怒られるんじゃないかとか、そんなのばっかり気にしてました。小さい頃から自分の思った事を言わない方が、生きやすかった。

寺島 だけど、頭の中では、いつも何か考えてた。

ヨシタケ そうですね。どうしたら自分が怒られた時、僕は悪くないって言えるか、そういう事はずっと考える子供でした。今でもそうなんですけど(笑)。

寺島 意外ですが、少しわかります。『りんご』を初めて読んだ時って衝撃的でしたよ。というのはそれまで、子供のために読み聞かせは凄くいいって言って、みなさん、絵本をくださるんですけど……。

ヨシタケ その先、何言うかわかるなあ。

子育てのグレーな本音

寺島 絵本て、何か良い感じで読まなきゃいけないなーっていうのがあって。

ヨシタケ 絵本自体が持っている、プレッシャーみたいなものってありますね。

寺島 で、読むと、ああなるほどいい話だなーっていうのもあるんだけど、作者が、いい人ぶっている感じ? のもあって。

ヨシタケ 僕も小さい時に読んで、何かモヤッとする絵本てありましたね。

寺島 そう。読み聞かせてて、なんか、悪魔の部分の私が、これ、ちょっと違くないって、思ってる部分があったりして。

ヨシタケ 子供は正直なんで、2、3ページ読んだ時に、あ、これたぶんつまんねーやと気づく絵本ってあるんですね。

寺島 それです。そんな時に、『りんご』に出会ったんですよ。で、私の感覚にぴったりで、これだ! って。

ヨシタケ 凄く嬉しいですね。単なる良い事言うのは簡単だし、言った方が気持ちいいんですけど、それを子供が全部読むかと言ったら、読みゃしないんですよ。

寺島 そうですね。

ヨシタケ 子供は世界で一番飽きっぽい生き物なんで、よっぽど何かないと次のページを捲ってくれない。だから、小さい頃の疑り深い自分に、これもうちょっと読んでみてもいいかなって思って貰うものを書かなきゃと、いつも考えてて。

寺島 うちの息子は、『りんご』のかつらのページが好きですよ。りんごは頭に、「じつはかみのけとかぼうしがほしいのかもしれない」という所。で、りんごが、ハカセとか、うんてんしとか、おすもうさんとかに変身していて。

ヨシタケ あのかつらの頁が、僕の一番やりたかったことなんです。この絵の中でどれか一個選ぶとしたら、どれがいい? っていうやりとりが親子で出来るから。普段喋らない子供でも、どれが好きと聞かれたら、うーん、このかつら、って言うかもしれない。絵本を媒体にコミュニケーションが生まれるっていう事が、実は子供の頃から好きだったんですね。一つの物語にどっぷりつかるっていうよりは、現実世界に片足を置いて、僕だったらこうするけどなー、って誰かと話したかった。

『思わず考えちゃう』の34頁より
ヨシタケシンスケさんの新刊『思わず考えちゃう』の34頁より

寺島 なるほどなー。じゃあ、今回の本の中で私が一番好きなのは、世の中でうまくやってくためには、『その時その時にその場にいない人を悪者にしながらなんとかのりきっていこうじゃないか』(34頁)っていうイラスト。ホントそれに尽きると思ってて。

ヨシタケ そうきましたか。誰だってその場は荒立てたくないですからね。

寺島 「心配事を吸わせる紙」(30頁)も、私、欲しいです。嫌な気持ちとかって外側に付くという発想が凄い面白い。

ヨシタケ お風呂に入ると、すっきりする。これはどういう事なんだって考えた時に、嫌な物が落ちるからじゃないかとイメージしたら、凄く合点がいって。

寺島 そう言われるとそんな気がする。

ヨシタケ 僕自身、それが欲しいんです。

ヨシタケシンスケさんの新刊『思わず考えちゃう』の32頁より
ヨシタケシンスケさんの新刊『思わず考えちゃう』の32頁より

寺島 「明日やるよ。すごくやるよ」(32頁)ってつぶやき。これほんとうちの息子だなー。どの頁にも、ふっとみんなが思ってることが書いてありますよね。

ヨシタケ みんなが当たり前のようにやってるけども、当たり前すぎて、やってる事を意識してない事って、世の中に沢山あって。そういうのを拾い集めるのが好きなんですね。

寺島 子育てに関する「今しかないのにもったいないのに、大事にできないやさしくできない。なぜかしら」(58頁)は、私もそう! って思いました。子供が、ねえねえって話を聞いて貰いたい時に、自分が何かやってて、結局は自分中心だから、今これやっててダメって言っちゃう。後で、子供の、たぶんその一瞬しかなかったかもしれない発見を逃したなー、ああー、って、罪悪感にかられる。

ヨシタケ そのグレーな部分こそが、実は子育てなんですよね。

寺島 でも、子供の声にちゃんと耳を傾けましょうっていうのが、今の日本で正しいとされる教育です。

ヨシタケ ただ、現実はそうじゃなくて。グレーになっちゃってもしょうがないよと思う。とはいえ出来ないよなーってのが、子育てしてて、一番の結論でした。

寺島 そうですよ。やりたいのは山々なんだもん。

ヨシタケ 正解はそっちって、そりゃ知ってるよ。でも、実際はこうだよなって。そこを両方ちゃんと言うべきで、その出来やしないというところから、じゃあ何なら出来るのかって、始めたいわけですよ。そう考えて、描いたんです。

新潮社 波
2019年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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