「その時その時にその場にいない人を悪者にしながらなんとかのりきっていこうじゃないか」女優・寺島しのぶと絵本作家・ヨシタケシンスケ大いに語る

対談・鼎談

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思わず考えちゃう

『思わず考えちゃう』

著者
ヨシタケ シンスケ [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103524519
発売日
2019/03/29
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【『思わず考えちゃう』刊行記念対談】ヨシタケシンスケ×寺島しのぶ 考えすぎてもいいんです!

[文] 新潮社

自由って、難しい

寺島 この本は、自由って事が、隠れテーマじゃないですか。最初も「ご自由にお使いください」(18頁)から始まって。

ヨシタケ 最終的に、そうなりましたね。

寺島 私は卑屈な子供だったんですよ。あなたは、弟みたいに歌舞伎役者のレールを敷かれてるわけじゃないんだから、何やったっていいんだよって、親に言われたけど。何だっていいって意味が全然分からなくて、自由が苦しかったんです。親は教えてくれなかったし。自由って、こういう事なんだって分かるのに、ものすごい時間がかかりました。

ヨシタケ 自由って、難しいですよね。

寺島 だから、ヨシタケさんの本を息子と読んで、一緒に自由について考えてみたい。君はどう思う? って二人で話せば、子供なりに何かわかるかもしれないから。息子とはそうしたいなあ。例えば、「裸シートベルト」(60頁)。自由すぎて、滅茶苦茶笑いました。

ヨシタケ あー、よかった。

寺島 これ、息子見たら絶対、俺もやるって言うと思います。裸族なので(笑)。

ヨシタケ やってみたくなればもう、しめたものですね。

寺島 あるあるを、少しシニカルにすると、ヨシタケさんの見方になるんですね。

ヨシタケ 自由って何だろう、って、大きなテーマですけど、その答えが自分なりに見つかった人が、幸せに近い状態になれるかなと。

寺島 ホント、そうだったなー。

ふと気付くと、考えてる

ヨシタケ 自分が親になって思うのは、親だからこそ子供に言えない事ってあるわけですよね。他人だったら言えるけど。

寺島 親だからこそ出来る事もあるし、親だから出来ない事もありますよね。

ヨシタケ 一方で、子供も学校へ入ると、どうやら親の話、実際の世の中とずれてるぞって段々気付くわけですよね。どうしてかって言うと、絵本だったり、漫画だったり、テレビだったり、映画だったりがこっそり教えてくれる。そこから、夢ってかなわないよなとか、大人って結構いい加減とかって事を学ぶ。

寺島 その考え、素敵だなー。

ヨシタケ でも、親の言ってる事が違うじゃないかと、かえって親子で揉めてしまう場合もあるわけで。

寺島 そこが難しい。

ヨシタケ 本当は、親だって、子供といろんな話をしたいわけですよ。子供の考えている事だって、昔、子供だった事があるので、結構わかっている。でも、実際、働いて、生活していると、そんな余裕もないわけじゃないですか。

寺島 子供の話に、どうしても結論を急いでしまうんですよね。時間ないし、忙しいし。

ヨシタケ だからこそ、絵本とか、何か話のきっかけになるものがあれば、助かるっていうのが僕自身もよくわかってきて。自分から子供に大事な話を切り出すのって、面倒くさいじゃないですか。でも、よく読んでる絵本とか、たまたま見たテレビのアニメの中でそういうテーマが扱われていた時、その物語をきっかけに、子供と今の時点で何をどう思ってるのか、価値観の共有を出来るかもしれない。そういう所に一役買えたらなって、いつも考えてます。

寺島 やっぱりねー。今日、ヨシタケさんと会って、何だか自分とすごく似てると思いました。人生、そうそううまくいくわけないよねって、私もいつも考えてて、順風満帆て言葉が好きじゃないんですよ。いい事があると、悪い事あるなっていつも思ってたし。

ヨシタケ わかりますわかります。

寺島 それでも若い時は、自分の感性だけを信じてやっていたのが、いろんな事情で、そうも行かなくなって来ちゃった。例えば、子供のためにこういう事言ったら世間体が良くないよなとか思うようになったりとか。子供にサンキューって思う一面、何てつまんない人間になって来ちゃったんだろうとか。

ヨシタケ すごくわかります。

寺島 でもそういうのを健全に感じられてる私は、まだいいのかなって思ったり。生まれてから死ぬ時まで同じ人間なわけはないはずなんで、まあそれも人生という事で、いいのかなあなんて。そういう、いろんな事をいつも考えてて。

ヨシタケ だんだん面倒くさくなりますよね。そのこと自体が。

寺島 そうなんですよ。だから最近は、どんどん切り捨てて、今ある必要な事だけやっていけば、きっとどうにかなるさ、みたいな。

ヨシタケ でも結局は、ふと気付くと何か考えちゃってるんですよね。

寺島 そういう事でいいんだってことを、ヨシタケさんの本を読んで感じました。そして今日お会いして、やっぱりそういう方だったなって、嬉しかったです。

ヨシタケ きれいにまとめて頂いて(笑)。

新潮社 波
2019年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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