『不老虫』
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触手への挑戦
[レビュアー] 石持浅海
官能の世界には「触手もの」というジャンルが存在する。ぐねぐねと動く紐状のものが女性を襲うという内容だ。
僕は、このジャンルが好きではない。元々女性が自由を奪われ襲われるシーンが好きではないし、まったく違う理(ことわり)で生きている生命体がなぜ人間に性的に興奮するのか、理解できないからだ。
だからずっと敬遠していたのだけれど、あるとき、ふと考えた。触手から性的な要素を取り去ってしまえば、いったいどんな物語になるのだろう。
現実世界にルールをひとつだけ追加するというのは、僕がよく使う手段だ。けれど加えるルールが触手という荒唐無稽なものだと、常識的なキャラクターでは対応できない。負けず劣らず濃い設定が必要になる。
人間を襲う、謎の触手。
触手に立ち向かう、特殊能力を持った美女。
相棒の猫。
魔法使いと、その弟子。
「もーっ」と言いながら兄の世話を焼く妹。
そういった、普段の僕なら決して出さないタイプのキャラクターを、触手が存在する世界に当てはめていった。
濃いキャラクターは、自身の個性が最も活(い)きるシーンを作家に要求してくる。ありがちとかベタと言われることを承知の上で、僕は彼らの希望を最大限かなえてあげることにした。着地は、今まで培った技術でなんとかなるだろう。
そうやって工夫した結果、どこかで見たようなキャラクターが、いかにもやりそうなことをやる物語ができあがった。では、これは平々凡々な話なのか?
それは、読んだ皆さんが判断してください。少なくとも、がっかりは、させません。