大森望「私が選んだベスト5」

レビュー

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  • 天冥の標10 青葉よ、豊かなれ PART3
  • 郝景芳短篇集
  • カモフラージュ
  • 鬼憑き十兵衛
  • 90年代サブカルの呪い

書籍情報:版元ドットコム

大森望「私が選んだベスト5」

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 10連休には長い長い小説を読みたい!という方に薦める大傑作が、小川一水『天冥の標』。最終巻となる『天冥の標X 青葉よ、豊かなれ PART3』が2月に出て、ついに全17巻におよぶ10部作が完結した。

 前半では、各巻ごとにジャンルを変えて違った面白さを追求。8巻以降、怒濤のクライマックスに突入する。最近のSFはあんまり……という人もぜひ。

『ハオ景芳(ハオ・ジンファン)短篇集』は、1984年生まれの中国人女性SF作家による初の邦訳書。英訳版がヒューゴー賞を受賞して全世界に注目された「北京 折りたたみの都市」や、鋼鉄人に征服された未来を描く短篇2部作など、英米SFとも日本SFとも肌合いの違う現代中国SFの個性が堪能できる。

 日本では、松井玲奈のデビュー作となる作品集『カモフラージュ』が出色。細やかなタッチで等身大の女性を描く小説もあるが、僕が驚愕したのは、“夜、仕事から帰ってくるお父さんの後ろには、真っ白な顔で洋服を着ていないお父さんが三人並んでいる”という奇妙な現象を描く逸品「ジャム」。かと思えば人気YouTuberたちが、食べると本音しか言えなくなる“本音ダシ”入りの鍋をつつきながら生配信を始める爆笑コメディも。引き出しの多さに感心する全6篇。

大塚已愛『鬼憑き十兵衛』は、昨年の日本ファンタジーノベル大賞受賞作。よくできたチャンバラ時代ファンタジー――かと思いきや、肥後・細川家の剣術指南役、松山主水が暗殺される場面から始まり、最後は伝奇方向に広がって、思いがけない景色を見せてくれる。即戦力の新人だ。

 ロマン優光『90年代サブカルの呪い』は、一世を風靡した“鬼畜系”ブームをいま改めて振り返る本。遠目にちらちら見てただけでよく知らなかったので、いろいろすっきりしました。

新潮社 週刊新潮
2019年5月2・9日ゴールデンウィーク特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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