『4年8か月の激闘』
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4年8か月の激闘 手倉森(てぐらもり)誠著
[レビュアー] 満薗文博(スポーツジャーナリスト)
◆人と戦術 密に見つめる
著書に巻かれた、いわゆる帯に「リオ五輪では代表監督を務め、ロシアW杯にはコーチとして臨んだ『非エリート指導者』による独占手記」とある。青森の高校から社会人に進み、二十八歳の若さで現役を引退したJリーグの選手時代、十九年にわたったJの指導者時代について、本著ではあまり触れられていない。その後に訪れた五輪監督、日本代表コーチとして奮闘した二〇一四~一八年までの四年八カ月が描かれる。十九年に比べたら短い歳月だが、突きつけられたその濃密ぶりには圧倒される。
しかし、手倉森誠という人は、いくつの顔を持っているのだろう。一冊の「手記」は、何カ所もの扉を開いて読む者を待ち受ける。サッカーの戦術好きには当然だが、技術論が詳しく描かれる。指導者と選手の関係に興味を持つ人なら、随所でクローズアップされる選手のメンタル面に向けられた奥深い観察眼にうならされる。
そして、本著の大きな柱を成す、コーチとして仕えた三人の代表監督順に、アギーレ(メキシコ人)、ハリルホジッチ(ボスニア・ヘルツェゴビナ出身)、西野朗(あきら)との人間関係には、時には奥ゆかしく、時には緊張感漂う場面が生々しく再現される。
まだある。日の丸を背負って奮闘する背景に流れる日本愛だ。ベガルタ仙台の監督時代に襲われた東日本大震災以来、著者は、サッカーが東北、そして日本の「希望の光」になることを誓う。現在はV・ファーレン長崎の監督である。一八年シーズンでJ1の最下位となり、J2から再スタートするチームを引き受けた背景には、かつての被爆地に明るい話題を届ける使命感があると言う。
濃密過ぎる内容は微に入り細に入り、まるで、メモ書きそのものが文章化されているようである。だが、新聞社で濃密な時間を著者とともに過ごした番記者は「私らの前でメモを手にする姿は見たことがない」と言う。目に、心に焼き付けた心象風景が、サッカーを媒体にしてあふれ出た好著と、私は断言する。
(KADOKAWA・1620円)
サッカーU-21日本代表前監督兼日本代表前コーチ。現在V・ファーレン長崎監督。
◆もう1冊
加部究(きわむ)著『日本サッカー「戦記」』(カンゼン)。1964年の東京五輪から現代までの軌跡。