<東北の本棚>置き去りの動物しのぶ

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長いおるすばん

『長いおるすばん』

著者
志賀伸子 [著]/石黒しろう [絵]
出版社
文芸社
ISBN
9784286198705
発売日
2019/02/01
価格
1,210円(税込)

<東北の本棚>置き去りの動物しのぶ

[レビュアー] 河北新報

 東京電力福島第1原発事故が発生した時、福島県浪江町に住んでいた著者が避難に際して置き去りにされた動物たちをしのび、当時の状況を絵本に仕立てた。「人間も動物も命の重みは同じ」。餓死したペットや家畜がいたことを書き残し、原発事故と東日本大震災を風化させないようにとの願いを込めた。
 物語は小学校入学直前の「健ちゃん」の飼い犬「ラン」の視点で進む。父親の車で避難する健ちゃんに「おるすばんだよ!」と言われるが、追いすがるラン。力尽きて自分の小屋に帰ったものの、健ちゃん一家は長い間戻ることができず、近所の家畜やペットと共に空腹を強いられる。餓死した動物の姿も描かれる。
 ランは健ちゃんの3歳の誕生日に父親が買ってきた。生後50日の子犬が幼児と4年間、一緒に成長してきた情景が表現され、健ちゃんの靴を抱いて眠るランの挿絵もあって、原発事故がもたらした別れのつらさが一層浮かび上がる。
 理由も分からぬまま避難を余儀なくされた人間の姿や、大渋滞の道路、避難所となった小学校の体育館の様子も記載。「『避難してください』の放送だけで、一時的なものと思って何一つ持たずに逃げた」という著者の当時を追体験できる。
 文芸社03(5369)2299=1188円。

河北新報
2019年5月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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