<東北の本棚>戦乱の中 愛息守り通す

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奥州藤原氏 清衡の母

『奥州藤原氏 清衡の母』

著者
堀江朋子 [著]
出版社
図書新聞
ISBN
9784886114761
発売日
2019/03/29
価格
2,200円(税込)

<東北の本棚>戦乱の中 愛息守り通す

[レビュアー] 河北新報

 都から派遣された役人による蝦夷地侵略、在地勢力の内紛、と続く戦乱を収め古代東北に百年の栄華の礎を築いた藤原清衡。その生みの母の生涯を軸に、女性の視点で描いた歴史小説だ。「天与の命の大切さ」を問い掛ける。
 前九年合戦で、源頼義は敵将・安倍頼時に寝返った藤原経清を生け捕りにし、激しく責めた。「お前の先祖は源氏の従者だった。元の主人を蔑(さげす)むとは大逆無道」と錆(さ)びた刀で、首を切り落とした。鎮守府将軍・頼義は侵略者にほかならない。経清に後悔はなかった。妻の「亜加」は時に25歳、子の清衡7歳。「亜加、生き延びろ。清衡、大きくなったら戦のない世の中を創るのじゃ」-。
 愛息を連れて逃亡生活、しかし行く先々で待ち受けていたのは戦乱に続く戦乱であった。「男たちはなぜ土地や富を争って戦をするのか、なぜ殺し合うのか」、泣き続ける亜加。在地の中心勢力は、やがて頼義と組んだ清原氏に取って代わる。清原氏側から嫡男との縁談が持ち込まれた。「この子を守るために、敵将の妻になってでも生きる方を選ばなくてはならない」。再嫁を決意する亜加。しかし後三年合戦で清原氏は滅亡、亜加も炎の中で生涯を閉じた。
 戦史は男の世界の記録でつづられ、「女性たちのことは、文献資料にほとんど残されていない」と著者は言う。一大の英傑に成長、平泉に開府し、中尊寺を建立する清衡。落慶供養願文に「罪もなく命奪われたものたちの御霊を慰め、極楽浄土に導きたい」と記した。壁に金色を塗り、らでんをちりばめた金色堂の創建には、多くの女性たちが関わったと伝える。「清衡は、命を守る女性こそ平和な世を創る力になると信じた。亡き母の思いを体現したのが金色堂だったのではないか」と著者は解釈する。
 1940年東京都生まれ。作家。2014年から北上市しらゆり大使を務める。
 図書新聞03(3234)3471=2160円。

河北新報
2019年5月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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