天然知能…郡司ペギオ幸夫著 講談社選書メチエ/TANKURI―創造性を撃つ…中村恭子、郡司ペギオ幸夫著 水声社

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天然知能

『天然知能』

著者
郡司ペギオ幸夫 [著]
出版社
講談社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784065145135
発売日
2019/01/12
価格
1,870円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

TANKURI

『TANKURI』

著者
中村恭子 [著]/郡司ペギオ幸夫 [著]
出版社
水声社
ISBN
9784801003897
発売日
2018/12/25
価格
4,400円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

天然知能…郡司ペギオ幸夫著 講談社選書メチエ/TANKURI―創造性を撃つ…中村恭子、郡司ペギオ幸夫著 水声社

[レビュアー] 鈴木洋仁(社会学者・東洋大研究助手)

 郡司ペギオ幸夫は、生命をめぐる理論的な考察を専門としており、これまで、時間や意識との関係について、哲学を補助線に語ってきた。

 今回は、この考察を発展させ、生命の知能が、いかに自らと違う存在を捉えるか、を論じる。

 『天然知能』とは、まさに郡司本人のことだ。「あいつは、てんねんだな」という揶揄(やゆ)と憧れが入り交じって形容される。ズレていると同時に、凄(すご)い知性を持っている。それは、見えないものに興奮し、「知覚されないものに対しても、存在を許容する能力」を持つ。

 世界についての正しい客観的知識=自然知能を「三人称的知性」、データを集め自分が活用する人工知能を「一人称的知性」と定義する。天然知能は、そのどちらでもない「一・五人称的知性」であり、想定外を受け容(い)れる。視界の先に「何か」があるという確信を備える。

 同書は、イワシやカブトムシ、サボテン等の生物や植物を素材に、天然知能が、どのように機能しているのかを論じ尽くす。

 『TANKURI』は、中村恭子が自作を天然知能として、郡司とともに読み解く。だから、「正しい」解説を提供するわけではない。あくまでも、「作家の意図と鑑賞者の実現の間」で生み出される外部に開かれている。

 とりわけ、「皿鉢(さわち)絵」に驚く。メルヴィルの「白鯨」に想を得た幅十四メートルにも及ぶ絵巻は、高知県の郷土料理、皿鉢料理を描く。皿鉢を囲む宴会は、主客の区別が曖昧になる。ただ決して、日常の風景に収まらない。外部に開かれた非日常の芸術になっている。

 この芸術こそ、「皿鉢絵」から『天然知能』の表紙に採られた鯖(さば)を抱える蛙(かえる)にほかならない。宴席という儀礼を理解しない蛙が持つ鯖の頭は、「白鯨のようだ」、と郡司は言う……。

 そんな彼の天衣無縫な想像力を通じて、外部、つまり、わけのわからないものへの喜びと恐れを体感する、唯一無二の読書体験が待っている。

読売新聞
2019年4月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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