ジェフリー・バワ 全仕事…デイヴィッド・ロブソン著 グラフィック社

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ジェフリー・バワ 全仕事

『ジェフリー・バワ 全仕事』

著者
デイヴィッド・ロブソン [著]/高橋正明 [訳]
出版社
グラフィック社
ISBN
9784766132052
発売日
2019/02/13
価格
9,828円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ジェフリー・バワ 全仕事…デイヴィッド・ロブソン著 グラフィック社

[レビュアー] 村田沙耶香(作家)

 昨年スリランカを訪れ、ジェフリー・バワの建築をいくつか観(み)てまわったことが、強烈な体験として残っている。彼の作った空間の中で、ただ美しいと感銘を受けるだけではなく、自分の内面にすでにそれがあるような、奇妙な感覚に陥ったことを、今でも忘れられずにいる。

 『ジェフリー・バワ全仕事』は、バワと深い交流があった著者のデイヴィッド・ロブソンが彼の仕事を纏(まと)めた一冊である。彼は序章で、「バワの複雑な個性に光を当て、作品を誤解させるレッテルの裏側を見る」ことを意図して書いたと述べている。その言葉の通り、この本はバワの建築物の写真と説明にとどまらない構造になっている。

 冒頭は小説のような始まり方で、幼少期の彼が兄に抱えていた感情や、「バワが建築家になる決心をした一瞬」などが綴(つづ)られ、次の章ではバワの背景にあるスリランカの歴史と建築について語られている。読者はバワが内包するものをしっかりと感じた上で、四章へと進み、建築家としてのバワの作品の数々と出会っていくことになる。バワの世界は生きて呼吸している。

 当然ながら私が短い旅で見た「バワ建築」はいろいろな意味でほんの一部でしかなかったのだと思い知らされる。ライトハウス・ホテルを「どの空間も一部は前の空間と繋(つな)がり、あるいは次の空間を予想させるように」つくりあげ、カンダラマ・ホテルを作る際に「ミステリーとサスペンスのある敷地」を望んだ彼は、今、「土産物を求めてやってくる数千人の旅行者に踏み荒らされる」庭を見て何を思っているのか。そんなことまで考えさせられ、この本が持つ凄(すご)みに呆然(ぼうぜん)とする。狂気すら感じながらも、どうしようもなく惹(ひ)きつけられる一冊なのだ。高橋正明訳。

読売新聞
2019年4月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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