高田馬場アンダーグラウンド…本橋信宏著 駒草出版

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高田馬場アンダーグラウンド

『高田馬場アンダーグラウンド』

著者
本橋 信宏 [著]
出版社
駒草出版
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784909646125
発売日
2019/03/14
価格
1,650円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

高田馬場アンダーグラウンド…本橋信宏著 駒草出版

[レビュアー] 森健(ジャーナリスト)

 大学生、予備校生に安い居酒屋。私にとって高田馬場は「これから」の人が生きる途上の街という印象がある。本書の著者にとっては「絶望や希望を抱きながら生きてきた」土地だった。

 これまでラブホテル街などの「異界」を書いてきた著者は高田馬場には縁が深かった。1974年、18歳の夏に来て以来、入学した早稲田大学、寄稿してきた出版社、自身の仕事場など40年以上寄り添ってきた。その高田馬場を多様な切り口で感傷とともに記したのが本書だ。自伝的でもあるが、猥雑(わいざつ)な街の歴史に潜んだ挿話の数々は、どれも苦さや青さに満ちている。

 大学では短大生の女子をめぐって「おれもあの子が好きだ」と略奪宣言をする先輩がいるかと思えば、「殺(や)れ!」という怒号とともに活動家が鉄パイプを振り下ろす内ゲバも目撃する。

 著者は取材も深めていく。高田馬場に沿って流れる神田川にはその名がついた名曲がある。あの曲はどのように生まれたのか。著者は当時の回想を皮切りに作詞家や歌い手の南こうせつに取材して、背景を解き明かしていく。

 漫画の神様、手塚治虫はなぜ高田馬場に事務所を構え、どのように仕事をしていたのかという一般受けする話もあれば、「エロ本出版社」が複数集まったのはなぜかという話もある。後者は成功譚(たん)でもある。従来のエロ本の女性と言えば、「チリチリのパーマをかけた三十代水商売風」ばかりだったが、若き出版人たちはテーマとドラマ性をもって「可愛い子」を出した。「貧しく無名の若者たちが巨万の富を得た」。

 ブルセラショップや風俗店など性で賑(にぎ)わせた人たちがいる一方、アルコール依存など厳しい状況にある人たちも点在していた。また著者自身、適応障害に陥り、苦しんだ時期もあった。

 通学で高田馬場駅を利用していた自身の父との関係も織り込まれ、ほのかなユーモアとともに描かれていく。著者のナイーブでやさしい視線が読みながら伝わってくるのが心地いい。

読売新聞
2019年4月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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