「抗日」中国の起源…武藤秀太郎著

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「抗日」中国の起源

『「抗日」中国の起源』

著者
武藤 秀太郎 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784480016799
発売日
2019/02/12
価格
1,870円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

「抗日」中国の起源…武藤秀太郎著

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

 第一次世界大戦の直後に中国で起こった抗日デモ、五四運動から百年めの日が、もうすぐやってくる。この事件は、中国共産党の歴史観においては近代史の画期として位置づけられているので、かつては日本でも盛んに研究されていた。しかし冷戦の終了で社会主義への関心が薄れたのちは低調になっているという。

 武藤秀太郎は本書で、日中間の知識人の交流史と、「抗日」の起源という二つの視点からこの事件を新たに位置づけ直す。五四運動でデモの主体となったのは、大学などの学生であったが、当時の中国は高等教育機関を急速に拡充しつつある時期だった。

 その教育制度は主に近代日本をモデルとしていた。そして日本の学者と、日本に留学した中国人とが、運営に深く携わった。「知識人」と新たに呼ばれた人々が盛んに結社を作って社会の改革を進める。その点で、五四運動を導いた新文化運動と、日本の大正デモクラシーとは共鳴しあう同時代現象ですらあった。

 それなのに、なぜ「抗日」の激しい暴力が吹き荒れたのか。その原因として、主に日本側の無理解が中国人の感情を刺激したことと、暴力を「愛国無罪」と呼んで容認してしまう中国側の意識とを、武藤はとりあげる。他面でこの両者に関して、吉野作造ら日中の「知識人」が同時代に批判していたことについても、指摘を忘れない。

 こうした「抗日」の心理は、そのまま現代中国にも引き継がれている。そしてそれが、日本を評価し積極的な関心をもつ「知日」の風潮と並行している状態もまた、世紀をこえて続いてきた。両義的な感情は日中両国の関係のあり方しだいで、「親日」にも、「愛国無罪」の「反日」にも向かうのである。

 国民どうしの相互理解を通じて友好を保とうと唱えるのはたやすい。だがいったいどこに注意したらいいのか。この本は思想史研究を通じてその要点を教えてくれる。

 ◇むとう・しゅうたろう=1974年生まれ。新潟大准教授(社会思想史)。著書に、『近代日本の社会科学と東アジア』。

読売新聞
2019年4月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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