肖像彫刻家…篠田節子著 新潮社

レビュー

3
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

肖像彫刻家

『肖像彫刻家』

著者
篠田 節子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103133650
発売日
2019/03/22
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

肖像彫刻家…篠田節子著 新潮社

[レビュアー] 通崎睦美(木琴奏者)

 校庭に佇(たたず)む「二宮尊徳像」、ロダンの名作、あるいは、高僧の像まで。本書に触れた読者は、妙に肖像彫刻が気になり始めるに違いない。

 この小説の主人公高山正道は、私立美術大学をトップで卒業後それなりの評価を得るも、うだつが上がらず妻と息子に逃げられる。失意の中、先輩に誘われイタリアで修業。ローマン彫刻の確かな技術を身につけたが、ここでも芸術家として身を立てるには至らず、8年を経て帰国した。そして、学んだ最高の技術を活(い)かして肖像彫刻家として独立し、注文仕事に徹する。

 素晴らしい肖像彫刻家は、自ら我を出さずともリアリズムの中に自然と作家性を浮かび上がらせる。像の中で作家の魂や念が渦巻くからだ。正道はそれほどの天才ではないが、技術を駆使し誠心誠意、姿を写す人物に寄り添う。結果、銅像には作家ではなく、モデルとなった人物の魂が宿る隙を与えてしまう。

 意思を持つ銅像が一種の狂言回しとなって繰り広げるストーリーは、スリリング且(か)つユーモラス。勝ち気ながら性根のよい姉。農村に借りたアトリエ兼住居の大家夫婦。彼らは正道に、大なり小なりの援助をするのだが、作品については全く理解していない。全編通じて顔を出す好意の数々が時に理不尽と化すのはなんとも切ないが、かえってそこに人情味を感じる。合わせて、制作上のパートナー、美大の同級生元妻、イタリアで成功した先輩。彫刻制作の「技術」を知る彼らの在りようを読むうちに、「真の理解者」とは、と考えさせられる。

 正道は最後に<注文仕事だって、売るための作品だって、創造力は発揮できる>という。芸術の世界に生きることは諦めたかもしれないが、その心は捨てておらず、私はほっとする。今後銅像が黙ってしまうなら、それは正道が今の境遇に甘んじ、創造力を失った時か、「真の芸術家」に昇華した時だろう。奇奇怪怪な出来事を楽しみ、さわやかな気分で読み終えた。

読売新聞
2019年4月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加