『1日ごとに差が開く天才たちのライフハック』
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習慣化が要。仕事の生産性を上げる「天才たちのライフハック」
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
圧倒的な成功を収めた“天才”と言われるような人たちと、普通の人との違いは?
この問いについて、「ある程度は先天的な要素により、ある程度は後天的な要素によってきまるものと思われる」と記しているのは、『1日ごとに差が開く 天才たちのライフハック』(許 成準著、すばる舎)の著者。
科学雑誌「サイエンティフィック・アメリカン」によると、大人の知的能力の60%は先天的なもので、40%は後天的なものなのだとか。
また、テキサス大学オースティン校の研究によれば、学術分野における成功の約60%以上が先天的な影響、残りが後天的な影響だったのだそうです。
学術的な成功が、人生の成功のすべてではないが、この研究結果には多くの示唆がある。 生まれながらの天才も確かに存在するものの、後天的な素質を開花させた成功者も、世界には大勢いることがわかる。
今から先天的な要素を鍛えることはできないのだから、現在の私たちは後天的な要素を最大限に高めるしかない。(「はじめに」より)
だとすれば気になるのは、「後天的な要素とはなんなのか」という点ですが、著者はこのことについて、「まだはっきりと証明されたわけではないが」と前置きしたうえでひとつの指摘をしています。
多くの研究者の尽力の結果、後天的な要素を左右するものとして「習慣」がもっとも有力であることが明らかになっているというのです。
習慣は繰り返し行われることで、成功への近道を生み出したり、驚くほど生産性を上げてくれる魔法の道具だ。
最近では、毎日の小さな行動で、人生に大きな変化をもたらすテクニックを「ライフハック」と呼んでいるが、圧倒的な成功を収めた天才たちが、ライフハックに使った道具こそ、習慣だったといえる。(「はじめに」より)
そこで本書では、古今東西の天才たちが駆使してきたライフハック、すなわち習慣に焦点を当てているわけです。その数は実に88種。
きょうは第3章「仕事の生産性を上げるライフハック」のなかから、3つのトピックスをピックアップしてみたいと思います。
身近な人に客観的な意見を聞く エンリオ・モリコーネ(1928~)
ローマ出身のエンリオ・モリコーネといえば、史上もっとも偉大な映画音楽作曲家。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』など、セルジオ・レオーネ監督とのコンビで頭角を現し、『アンタッチャブル』でグラミー賞を受賞、アカデミー賞にも6回ノミネートされている、文字どおりの巨匠です。
そんなモリコーネには、一風変わった習慣があるのだそうです。曲をつくると、真っ先に妻に聞かせるというもの。
そして映画監督よりも先に曲を聴いた妻は、曲調の良し悪し、映画の雰囲気に合っているかなど、さまざまなアドバイスをするそうなのです。
それどころか、映画監督がどの曲を使うべきか迷っているとき、彼女の意見が重要視されることもあるほど。
でも、なぜモリコーネは妻の意見をそこまで重視するのでしょうか?
その理由は、どんな仕事をする人でも、自分の成果物を客観的に評価することはできないからである。
たとえば、料理をしている人は、数時間その匂いを嗅ぎながら作った料理の味を正確に評価することはできない。 だから、第三者の冷静な意見を必要とするのだ。 (89ページより)
ところが現実問題として、仕事上の関係者や、上下関係がある人に意見を聞いても、当たり障りのない答えが返ってくることが多いもの。
だからこそ家族など、忖度なしに「素直な意見」を聞かせてくれる人が必要だということです。
なおモリコーネは長年の映画界への貢献が認められ、2007年にアカデミー賞特別功労賞を受賞しましたが、その際に壇上で愛妻への感謝を表したのだといいます。(88ページより)
寝る前に次の日の仕事を始める デミス・ハサビス(1976~)
デミス・ハサビスは、初めて囲碁で人間に勝利した人工知能「AlphaGo」を開発したDeepMindの創業者。
AlphaGoの意義は、囲碁をするだけではなく、「ディープラーニング」というアルゴリズムを利用してコンピュータに学習させ、いろいろな分野で活躍させることができるという点にあるといいます。
それまでの人工知能は、かなり原始的な思考方法にとどまっていました。なにより問題だったのは、チェスができる人工知能はチェスのプレー以外の機能を持たなかったこと。
そういう意味において、本物の人工知能といえるものはハサビスとDeepMindによって誕生したことになるわけです(同社は2014年、Googleに5億ドルで売却されました)。
ところでそんなハサビスには、おもしろい生活習慣があるのだそうです。それは夜寝る前に、次の日の仕事に少しだけ手をつけるというもの。
夜型人間の彼は、午前4時に寝て午前10時に起床。自分の会社に出勤すると夜まで働き、帰宅して夕食を取り、家族と過ごすことに。
そして以後午後10~11時までは、自分の部屋で次の日の仕事の準備をするというのです。
人工知能分野の最先端の論文を読むなど、もっとも頭を使う仕事をこの時間にこなすということ。
クリエイティビティが必要な仕事を深い夜の静かな時間にすることは、自分の頭の働きに最適だと彼は考えているのです。
朝に出勤してデスクの前に座ったとき「いったいなにから手をつけようか…」とげんなりした経験は誰にでもあるはず。
しかし、そうならないための方策が、夜に寝る前に、少しだけ明日の仕事のことを考えることだというわけです。
ハサビスのように本格的に取り組まなくとも、明日の仕事についての輔をメモに書き出しておくだけでOK。そうすることで、仕事を朝に始めるのではなく、寝る前に始めているという意識づけが可能に。
翌朝に向けて「仕事の連続性」が高まり、モチベーションを上げる効果が期待できるのです。(93ページより)
本はノートのように使い倒す アイザック・ニュートン(1642~1727)
科学雑誌で「歴史上もっとも偉大な物理学者は?」といったアンケートの結果が発表された場合、アルベルト・アインシュタインと並んで常に第1位に選ばれるのがアイザック・ニュートンです。
イギリスの王立協会図書館には、ニュートンが読んだ本が保存されていますが、そこからは彼の読書に関する習慣を知ることができるのだそうです。
読書中に重要だと思った部分に印をつけるため、本のページの角を折ることは、一般的にドッグイヤー(犬の耳)と言われています。が、彼はそうした方法の一歩先を行っていたというのです。
ニュートンが型破りだったのは、ただの犬の耳ではなく、犬の耳の先が彼が重要だと考えた文章や単語を指すようにページを折ったこと。
当然のことながら耳の大きさはまちまちで、ページの半分以上を覆うような大きさのものもあったわけです。
また、本の余白に自分なりの索引をつくってもいたそうです。
その索引は主題別に、そしてアルファベット順になっていたため、自分にとって重要な部分をすぐに探し出せるようになっていたのだといいます。
この習慣からは、ニュートンが本を「いつまでも保存しておきたい大切なもの」ではなく、「仕事のための道具」と捉えていたことがわかる。
私たちも、本を必ずしもきれいにつかう必要はない。さまざまな色のペンで書き込んだり、付箋だらけにしたり、自分が読み返したときもっとも情報を取り出しやすい形で使って良いのだ。(101ページより)
とくに仕事のために読む本の場合、このアイデアは大きな意味を持つことになりそうです。
他にも「集中力を強化するライフハック」「アイデアが湧いてくるライフハック」「ストレスに打ち勝つライフハック」「学び、自らを高めるライフハック」と多彩な内容。
いま自分が悩んでいる問題のヒントになりそうな箇所から読むこともできるので、利用価値は多彩です。
習慣によって成功をつかむために、ぜひ読んでおきたい一冊です。
Photo: 印南敦史
Source: すばる舎