乱歩先生、怒らないで――『焼跡の二十面相』著者新刊エッセイ 辻真先

エッセイ

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焼跡の二十面相

『焼跡の二十面相』

著者
辻真先 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334912772
発売日
2019/04/18
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

乱歩先生、怒らないで

[レビュアー] 辻真先(作家)

 ぼくのミステリの原点は、「少年倶樂部」の昭和12年2月号である。それまで年相応に(ぼくは昭和7年生まれ)おなじ大日本雄辯會講談社発行の「幼年倶樂部」を購読していたが、幼い癖になんでもかんでも読みあさっていたので、出来心でつい「少倶」を手にとった。書店の店先である。ぼくの家はすぐ裏手のおでん屋だったから、一軒ずつあった新刊書店と古書店は、ガキの立ち読みを大目に見てくれていた。するとぼくは、それっきり店先に根を生やした。
 

 それが第2作にあたる「少年探偵団」の連載第2回であった。

 江戸川乱歩(えどがわらんぽ)の怪人二十面相シリーズは、前年から連載が開始されていたのだが、不覚にもぼくは気づかなかった。だから物語の設定をよく知らなかったのだが、アアなんと不気味で面白い小説だろうと、いっぺんにのめり込んでしまった。挿絵は前年と違って梁川剛一(やながわごういち)が担当していたが、これが初見のぼくだから、明智(あけち)探偵も小林(こばやし)少年も彼の絵に限ると思い定めた。ただちに隣の古書店へ行き、前月号の「少倶」を立ち読みした。やはり面白い。またあわてて新刊書店に引き返し単行本化されたばかりの第一作『怪人二十面相』を立ち読みした。ヒヤァなんたる面白さ。ぼくは乱歩先生に心臓を鷲掴(わしづか)みにされて、翌月から発売日を待ちかねて「少倶」を立ち読みする(買うのではない)ことにした。第三作「妖怪博士」ももちろんであった。その後、昭和14年にいたっておなじシリーズを装いながら、二十面相はなぜか登場しなかった。大陸に戦火がつづいて政府が講談社に干渉したのだと、戦後になって知ったぼくは悔しかった。次に二十面相が登場するのは昭和24年なのだ。だがあの怪人のことだ、たとえ日本は敗れてもきっとどこかで活躍したに違いない! そんなわけでぼくは無謀にも、知られざる二十面相と小林くんの冒険譚を書いたのです(乱歩先生ごめんなさい。でも読んでください)。

光文社 小説宝石
2019年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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