人・組織を生かす人事システムとは? 社長が全リーダーの模範となるべき理由

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P&Gで学んだ経営戦略としての「儲かる人事」

『P&Gで学んだ経営戦略としての「儲かる人事」』

著者
松井義治 [著]
出版社
CCCメディアハウス
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784484192017
発売日
2019/03/01
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

人・組織を生かす人事システムとは? 社長が全リーダーの模範となるべき理由

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

P&Gで学んだ経営戦略としての「儲かる人事」』(松井義治著、CCCメディアハウス)の著者は、P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)において採用・人材育成など、いわゆる人事や組織開発のリーダーを務めてきた実績の持ち主。

そんなキャリアをベースにした本書についてまず注目すべきは、P&Gの基本的な人事がライン(各部門)で完結するものだと明かしている点です。

たとえばマーケティング部の中での評価、昇進、教育はラインのリーダーの仕事であって、人事部の役割はリーダーによって評価の偏りが出ないよう、組織としての不動の評価軸や枠組みを示すことにあります。

人事は原則、部門のライン・リーダー、マネージャーが果たすべき務めです。(「はじめに」より)

部下のことは、もっとも身近にいる上司がいちばんよく知っているはず。そこで上司には、部下の動機づけから評価、処遇、育成まで責任をもってやらせるべき。

そして、そんなP&G方式の人事は、人事スタッフに人を割けない日本の中小企業にこそ有効な人事システムだというのです。

P&Gがそうであるように外資系企業は、会社としては世界規模のグローバルカンパニーであるものの、日本法人は意外に中小企業規模並み。

そういう意味で、外資系の人事システムは中小企業の人事システムともいえると主張しているわけです。

だからこそ中小企業であっても、効果的で生産的な人事は、各部署のリーダーがもう少し目配りを気配りをすればできるということ。

そうした考え方に基づき、本書では「中小企業だからできる人事」についてわかりやすく、しかも論理より行動を重視して説明しているのだといいます。

一方、CHAPTER 5「人を伸ばす・組織を生かす人事システム」において著者は、「社長がすべてのリーダーの模範となるトップリーダーであることの価値」にも注目しています。

きょうは、その点をクローズアップしてみたいと思います。

仕組みは連動してこそ効果を発揮する

人事とは、組織図上の部門のことではないと著者は言います。人事部があるから人事があるわけではなく、いかなる会社にも人事はなくてはならない仕組み。

そして人を生かす仕組み、人を育てる仕組み、人に最高のパフォーマンスを発揮させる仕組みだというわけです。

組織の仕組みには、

①会社のミッションを成し遂げるための事業構築に関するもの

②会社を理想の形に持っていくための組織構築に関するもの

③それらを動かすための人づくりに関するもの

があります。いうまでもなく人事は、③の人づくりに関わる仕組みだということです。

これらの仕組みは単独で存在するものではなく、相互に関連しあい、補完しあって組織の仕組みを構成しています。

そのため、優れたリーダーをつくるにも、人事とそれ以外の仕組みとの連動が重要な意味を持つというのです。

人事とは、会社的な仕組みと連動してはじめて効果を発揮するもの。

いわばラインのリーダーであれ、組織全体を率いるリーダーであれ、優れたリーダーをつくるためには、組織的な仕組みをもって取り組む必要があるということです。(168ページより)

リーダーの力を強化するには

会社の力は、やはりリーダーで決まるもの。どれだけ優秀なリーダーがいるか、そして、どれだけ多くの優秀なリーダーを抱えているかが、その会社の力になるという考え方です。

だからこそリーダーの育成方法が重要な意味を持つことになるわけですが、著者は、リーダー育成に欠かせない要素は6つあると指摘しています。

1 あるべきリーダー像(Espoused Leadership Vision)

リーダーとはどうあるべきは、どのような能力を持ち、どのような言動をすべきかが明確に記され、組織で共有されている

2 模範(Example)

人は尊敬する人を見習って学ぶもの。そして、尊敬できる人をお手本に行動を修正するもの。そのため、リーダーの行動は組織全体の行動基準に沿ったものでなければならないわけです。

3 教育(Education)

リーダーになるための知識・スキル・姿勢は学ぶ必要があります。またリーダーになったとしても、「できていないこと」「できてはいるがさらに伸ばすべきこと」は多くあるはず。

そこで必要となってくるのは、リーダーにも成長するための学びの機会を与えること。

4 経験(Experience)

チャレンジングで責任の重い仕事は、人を成長させます。一段難しい仕事にチャレンジさせることは、リーダーとしてのマインドと能力を培うために欠かせないわけです。

5 評価(Evaluation)

人は自らについて、包括的に正しくは評価できません。

しかし的確な評価と適切なフィードバックは、仕事の進捗確認とともに、自己理解を深め、強化点に気づくために、リーダーにとっても絶対に重要なことだと著者は強調しています。

6 環境(Environment)

人は環境や仕組みによって変化するもの。

そしてリーダーが成長し続けるために必要となるのは、学ぶ文化、切磋琢磨する同僚、人とチームを育てる仕組みや制度など。

社長がすべてのリーダーの模範となるべき理由

まとめてみましょう。

まず最初の段階は、あるべきリーダー像(Espoused Leadership Vision)を明確にし、そのうえでリーダーシップを学ばせ(Education)、リーダーとして重要な仕事を経験(Experience)すること。

次にリーダーとしての仕事や行動に対し、適切な評価(Evaluation)とフィードバックによって気づきと振り返りを促し、模範的リーダー(Example)へと育てる。

さらに、リーダーが切磋琢磨する人事制度や組織の文化(Environment)を築く。

この6つの成功要因が備われば、社内に確実に素晴らしいリーダーが育ってくるものだといいます。

すなわち、こうした「リーダー強化策」も、経営者の行うべき重要な人事施策であるということ。

社長がすべてのリーダーの模範となるトップリーダーであれば、このリーダー育成の仕組みは加速度的に強化されることになるそうです。

もちろんそれは、理想の形であるわけです。(169ページより)

肝心なのは、まずトップ自身が人事について正しく知ることだと著者は言います。

そして人事の力とは、自社の求める人材をつくり、長期には企業の理念やビジョン(夢)を達成する力であり、短期には目標達成のためにパフォーマンスを高める力。

それらは、経営者の力にほかならないということです。

経営者にとって、人事を知ることは経営の力を得ることでもあるーー著者のこの主張は、人事について考えるうえで大きく役立つのではないでしょうか。

Photo: 印南敦史

Source: CCCメディアハウス

メディアジーン lifehacker
2019年5月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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