『韓めし政治学』黒田勝弘著 食文化に込められた執念

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韓めし政治学

『韓めし政治学』

著者
黒田, 勝弘, 1941-
出版社
KADOKAWA
ISBN
9784040822730
価格
946円(税込)

書籍情報:openBD

『韓めし政治学』黒田勝弘著 食文化に込められた執念

[レビュアー] 久保田るり子(産経新聞社編集委員)

 在韓40年の「クロダ記者」は本紙にとどまらず日本ジャーナリズムを代表する朝鮮半島ウオッチャーだが、韓国人の深層心理や韓国食のうんちくにかけても他の追随を許さない。本書は食文化から政治文化に切り込んだエピソード満載のエッセー集だ。

 文在寅(ムン・ジェイン)政権といえば反日と北朝鮮だ。文大統領は訪韓したトランプ米大統領の歓迎ディナーに「独島エビ」を出し、「そこまでやる?」と日本をあきれさせた。この反日メニューの舞台裏を探った1章では、歴代政権が晩餐(ばんさん)にいかなる執念の政治メッセージを込めてきたかが掘り起こされている。晩餐とは日本では「おもてなし」だが、韓国は「多情さ」に過剰な思いを込める。クロダ記者はこれを「政治的自己チュー」とグサリと指摘した。

 罷免された朴槿恵(パク・クネ)前大統領は「独り飯で追放された」との章では、独り飯しかできなかった来歴を朴氏との交流も絡めて語った。独り飯を韓国語で「ホンバプ」というが、人間関係の濃い韓国で「ホンバプ」は変わり者の代名詞だったという。だから、文大統領が訪中や訪朝で先方からお呼ばれが掛からないホンバプを取ったことが判明すると、韓国世論が大騒ぎになるとの話も興味深い。

 ソウルの食の風景は、韓国現代政治史により変化してきた。北朝鮮出身の李承晩(イ・スンマン)時代では肉食が、南部の慶尚北道出身の朴正煕(パク・チョンヒ)時代は魚料理が一般化し、南東部の全羅道の金大中(キム・デジュン)時代には「湖南」と呼ばれるこの地域の料理が席巻した。政治家はイヌ肉料理で精力を誇示し、歴代大統領は盆暮れに郷土の食材を有力者に贈ってきた。人々が「メシを食いつつ政治を語ってきた」その姿がくっきりと浮かび上がる。

 現在の北朝鮮領、開城は10世紀からの高麗時代の首都で美食の「開城料理」で知られるが、開城のモチは不思議な形で小さな白玉がふたつ、数珠のようにつながっている。白玉は高麗を滅ぼした王の首を見立てており、餅を食いちぎって高麗の遺民は亡国の恨みを晴らしてきた。由来や風習、歴史や事件とクロダ記者の筆は縦横無尽である。(角川新書・860円+税)

 評・久保田るり子(編集委員)

産経新聞
2019年5月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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