女性ふたりのユニットが紡ぐアーティスティックなミステリー

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偽りの春 神倉駅前交番 狩野雷太の推理

『偽りの春 神倉駅前交番 狩野雷太の推理』

著者
降田 天 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041079461
発売日
2019/04/26
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

女性ふたりのユニットが紡ぐアーティスティックなミステリー

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 日本推理作家協会賞を受賞した表題作を含む五篇を収めた著者初の連作短篇集だ。降田天(ふるたてん)名義でのデビューは二〇一四年の『このミステリーがすごい!』大賞。受賞作『女王はかえらない』は、田舎の小学校の四年生クラスで起きる事件の顛末を凝った構成で描いた作品だった。

 女性ふたりのユニットと聞いて、ふたりなら執筆も倍速で捗るのではと思ったが、とんだ勘違い。文章にも仕掛けにも妥協を許さぬアーティスト系というか、手間暇かけて作品を練り上げていくタイプだったようで、本書にもネタ探しや取材、話作りに苦労を重ねた成果が表れていよう。

 第一話「鎖された赤」は、認知症で施設に入った祖父の留守宅の管理を託された男子大学生が、そこで古い土蔵を発見、幼時から抱いていた幼女相手の危険な欲望を炸裂させる。

 犯行を前もって明かす、いわゆる倒叙推理のスタイルだ。著者は彼の犯行を、丹念な心理描写を軸に描いていくが、そんな彼の前に立ちふさがるのが副題にある神倉駅前交番の狩野雷太。まずは狩野が彼の犯行をどう見破るかに注目だが、著者はさらにもう一幕用意している。

 第二話の表題作では、高齢者相手の詐欺グループが仲間割れ、男女ふたりが稼いだ金とともに逃亡したうえに、自分たちの犯行を知る者から一〇〇〇万円を要求する脅迫状が届いたことで、リーダーの水野光代が最後の大勝負に出る。

 これまた倒叙形式で老老詐欺の顛末が描かれるが、そのままでは終わらない。また話を追うごとに、「落としの狩野」と呼ばれた取り調べの名手がなぜ交番警官に甘んじているのかが気になってくるが、第三話「名前のない薔薇」を挟んで、第四話「見知らぬ親友」と第五話「サロメの遺言」でそれが明かされる。

 最後の二話は芸術絡みで話がつながっており、耽美な情念の暴走劇も堪能出来る。表題作のみならず、連作集としての完成度が高い一冊だ。

新潮社 週刊新潮
2019年5月16日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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