『ケンブリッジ式1分間段取り術』
書籍情報:openBD
仕事で効率良く成果を上げる。「段取り力」のために身につけたい2つの習慣
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『ケンブリッジ式1分間段取り術』(塚本 亮著、あさ出版)の著者は、偏差値30台の高校に通う問題児だったにもかかわらず、一念発起して同志社大学に現役合格。
卒業後はケンブリッジ大学大学院で心理学を学んだのち、グルーバルリーダーを育成するジーエルアカデミアという会社を立ち上げたという人物。
会社を経営しながら、多くの講演や講義を行い、通訳や翻訳、企業や大学のコンサルティング、本の執筆など多岐にわたる仕事をこなしているそうですが、だとすれば当然のことながら、同時にたくさんのことを進行させることが必要になるはず。
そのため、自分がすべきこととそうでないものを整理し、任せられる仕事はスタッフやビジネスパートナーなどに任せながら進めているのだといいます。
そこで、そうした経験を基盤に、「どのようにしてたくさんの仕事をこなし、しっかりと成果を上げているのか」を多くの人にシェアしたいという思いから本書を執筆したのだといいます。
まず、朝のお母さんのお弁当作りを思い浮かべてみてください。
今日の晩御飯や明日のお弁当のイメージをしながら、足りない食材をスーパーで調達。
そして朝になると、炊飯器のスイッチを押して、電子レンジで前日のおかずの残りを温め、その間にソーセージをフライパンへ。ソーセージが焼けるまでの間に野菜の準備をして、レンジが終わったタイミングを見計らって、冷凍食品の唐揚げを温める。
子どもたちが起きてきたら、朝食も同時に仕上げてしまう。
全てが起きた時点での思いつきではうまくかいかないのです。先を予測して、先に先に準備をしておくから、お弁当に、選択に、掃除にと忙しい朝をテキパキとリズミカルに進めることができるのです。(「はじめに」より)
同じように、仕事においても大切なのは、いかに無駄なく、時間を効率的に使いながら、事前に描いた完成図に到達させるか。すなわちそれが「段取り」。段取りとは、自分の強みを最大限に発揮するための仕事術だということ。
こうした考え方に基づく本書のなかから、きょうは第5章「段取り力を高める習慣」に注目してみることにしましょう。
振り返りで直感力を磨く
段取りが上手な人は、判断のスピードも速いもの。
そのことについて語るにあたり、著者は将棋棋士の羽生善治さんの話題を引き合いに出しています。
みなさんもご存知の羽生善治さんは、著書『直感力』(PHP新書)にて、 「論理的思考の蓄積が、思考スピードを速め、直観を導いてくれる」 と仰っています。
さらに、 「直観は、本当になにもないところから湧き出てくるわけではない。考えて考えて、あれこれ模索した経験を前提として蓄積させておかねばならない。また、経験から直観を導き出す訓練を、日常生活の中でも行う必要がある。
もがき、努力したすべての経験をいわば土壌として、そこからある瞬間、生み出されるものが直感なのだ」 と仰っており、トライアンドエラーを繰り返すことで直観は磨くことができるものだということなのです。(200~201ページより)
インターネットでなんでも調べることができる時代ではありますが、情報を頭に詰め込んであれこれ考えるだけで直感力を磨くことはできないということです。
なぜなら知識としてわかりきっていることでも「実際に自分で体験してみたら、印象がまったく違っていた」というようなことはいくらでもあるものだから。
やってみないとわからない以上、まずはやってみることが大切だという考え方。
まずは、トライしたことによって生まれた結果をすべて受け止める。そして、同じミスを繰り返さないようにするにはどうすればいいか、もっとよくするのはどうすればいいかを考える。
ひとつひとつ真剣に考えていくことによって、一瞬で勝負を決めてしまうストライカーのような嗅覚が磨かれていくというのです。
そして、そのために必要なのが「振り返り」。
事実、著者はケンブリッジ大学の大学院において、振り返りの大切さを叩き込まれたのだといいます。
振り返りの時間を設けることで、人は学習をするというのです。逆にいえば、やりっぱなしにするから同じミスを繰り返し、直感力も磨かれないということなのかもしれません。
ちなみに振り返りを行うための効果的な手段として著者が勧めているのは、日記を書くこと。それだけで理想と現実のギャップをかなり正確に把握できるというのです。
重要なポイントは、簡単でかまわないので、なにより書き出すこと。言語化することによって、脳内を整理できるようになるわけです。
ですから、私はDCAPで簡単な日記をつけるようにしています。PDCAを並び替えただけですが、今日はどんなことがあったのか、何をしたのか(Do)、それはどんな結果につながったのか(Check)、どうすれば良くなるか(Act)、そして今から何ができるか(Plan)を考えます。(202ページより)
とにかく振り返ることで、行動から学ぶことができるようになるというのです。
直感力を磨けば、決断も段取りも早く、的確になることでしょう。そのためにはトライすること、どうすればよりよくなるかを真剣に考えることが大切。
時間はかかるかもしれませんが、その積み上げが段取りに磨きをかけてくれるのだといいます。(200ページより)
24時間メモを身につける
常にポケットにメモとペンを携帯しているという著者は、メモに関してひとつの指摘をしています。
段取りが悪い人は、会議や打ち合わせですらメモを取ろうとしません。自分の記憶力を過信して、結局は「あれ、なんだったっけな」となってしまいます。
それによって確認するという作業を増やしてしまいますし、「すでに説明したのに何を聞いていたんだ」ということにもなりかねません。
確認するのをためらってしまい、不安なまま自分の思い込みで仕事を進めている人もいるのではありませんか。(208ページより)
「メモをする」という行為は、自分の脳に情報を残しておくことではなく、メモという外部装置に情報を保存しておくこと。そのため、脳内に空きスペースが生まれるのだそうです。
逆にいえば空きスペースがないと余裕がない状態になってしまうので、脳の稼働率が下がってしまうということ。
つまり、メモは段取りの礎なのだと著者はいうのです。
だからこそ、新聞やネット記事などを読んでいるときに「これはいいアイデアだな」「これは役立ちそうだな」などと感じたなら、その瞬間にメモしておくことが大切だということ。
なお、著者が考える「メモを取るときのポイント」は次の3つだそうです。
●びっしり書かない
メモを取るときびっしり書いてしまうと、あとで見なおしたときに読みづらくなります。
著者の場合はA6の小さなノートにメモをたくさん取るそうですが、余白はたっぷりとっているのだとか。
●体裁を気にしすぎない
誰かに見せるわけではないので、きれいに書く必要はなし。むしろ、体裁に気を取られて思考が狭まってしまうほうがよくないわけです。
●見返す時間を確保する
メモをたくさん取ることと同時に、それを見返す時間も大事。
隙間時間にぼーっと眺めるだけでも、メモしたときには気づかなかったことに気づけたり、新たな疑問が浮かんできたりとメモを活用することが可能になるといいます。
著者は常にメモとペンをポケットに携帯しているそうですが、たしかにメモをとる習慣をつければ段取りも容易になりそうです。(208ページより)
他にも「ゴールまでの道のりの描き方」「頭のなかの整理のしかた」「コミュニケーションで段取りを加速させる方法」「集中できる環境のつくりかた」と、段取り力を高めるためのノウハウをさまざまな角度から紹介した内容。
より効率的に仕事を進めたいという方は、手にとってみてはいかがでしょうか。
Photo: 印南敦史
Source: あさ出版