わたし、定時で帰ります。ハイパー…朱野帰子著 新潮社

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わたし、定時で帰ります。: ハイパー

『わたし、定時で帰ります。: ハイパー』

著者
朱野帰子 [著]
出版社
新潮社
ISBN
9784103516422
発売日
2018/03/29
価格
1,540円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

わたし、定時で帰ります。ハイパー…朱野帰子著 新潮社

[レビュアー] 本郷恵子(中世史学者・東京大教授)

 ヒット作にして問題作『わたし、定時で帰ります。』の続編が登場。しかも「ハイパー」と冠するだけあって、ヒロイン東山結衣の定時退勤を阻む壁は、そのブラック度を増している。

 結衣が勤めているウェブ制作会社ネットヒーローズでは、社長が「残業時間、月二十時間以内」を目標に掲げて働き方改革推進中。結衣は入社以来、定時で帰る生活を貫いてきた。仕事をしないという意味ではなく、生産性を高めるための努力を重ねたうえでのことだ。自分から望んだわけではないが、サブマネジャーに昇格し、いつのまにかホワイトな働き方のロールモデルにまつりあげられてしまった。一方で、グータラ社員の系譜の筆頭と皮肉られることもあり、定時を全うするのもけっこうキツい。

 結衣のチームに与えられた課題は、スポーツウェアメーカーであるフォースの受注を獲得することだ。完全体育会系の論理で運営されるフォースは、上司に絶対服従、裁量労働制を悪用した常時臨戦態勢、筋肉至上主義で、「いるいる、こういう奴(やつ)ら」感満載。あ~イライラする。

 さらに結衣の実家には、会社と家父長制の両方の歪(ひず)みを体現している父親がいて、家族に嫌われている。「会社っていうのは男のものだ。いくら女が小賢(こざか)しいことをしたところで、変わるわけがない。なめてたら酷(ひど)い目に遭(あ)うぞ」という父の言葉はリアルに怖い。

 男の牙城を崩すには、肉を切らせて骨を断つぐらいの覚悟と戦略が必要だ。救いは、結衣に続く男性グータラ社員たち。彼らは会社の論理にとりこまれず、世代間の意識差を堂々と表明する(空気読めないともいうが)。それに、右肩上がりの時代ならともかく、滅私奉公したところで、もはやご褒美は期待できない。

 働く若い女性を中心的な読者層に想定している小説だと思うが、働く男性、働いていた男性にも、ぜひ読んでもらいたい。もちろん、これから働く人たちにも。燃えるし、泣けます。

読売新聞
2019年5月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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