敗北者たち THE VANQUISHED…ローベルト・ゲルヴァルト著

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

敗北者たち

『敗北者たち』

著者
ローベルト・ゲルヴァルト [著]/小原淳 [訳]
出版社
みすず書房
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784622087618
発売日
2019/02/19
価格
5,616円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

敗北者たち THE VANQUISHED…ローベルト・ゲルヴァルト著

[レビュアー] 藤原辰史(農業史研究者)

 第1次世界大戦は、1914年から始まり18年に終わったと学校では教えられる。だが、広範囲に民衆を恐怖に陥れた時期を考えると、始まりも終わりも決してこれらの年で区切られるわけではない。

 私の職場は、「第一次世界大戦の総合的研究」という共同研究を足掛け8年にわたって続け報告書も出版したが、そのときの視角の一つも「未完の戦争」であり、私もドイツの戦後暴力に関する論文を書いた。

 本書も、国家間戦争の終わりが、帰還兵士や民間暴力組織による血で血を洗うような暴力が各地で進行し400万人の犠牲者を出す始まりとなったことを、膨大な文献調査と研究ネットワークを利用して実証している。しかも、扱う領域が一人技とは思えないほど広く、どの地域の調査と叙述にも手を抜いていない。

 基本的にはロシア、ハプスブルク、オスマン、ドイツの四大帝国崩壊後の虐殺と破壊の嵐を描くのだが、イタリア、ブルガリア、ギリシャ、イベリア半島、アラブ地域など、日本では比較的知られていない地域の状況もかなりの密度で記されている。

 それにしても、なぜ人はここまで残忍になれたのか。本書では、様々な角度からその理由を模索する。

 まず、革命への恐怖と憎悪。ロシア、ハンガリー、リトアニア、ドイツなどで次々に革命政府が誕生するが、それらを抑え込む過程で陰惨な暴力が感染していく。他方、革命の側の暴力も凄(すさ)まじく、とくにロシアでは、レーニンの指示のもと食糧調達のために農民殺戮(さつりく)が繰り広げられたことはもっと知られてよい。

 そして、一民族一国家という戦後のレジームが中東南欧の多民族混住地帯にもたらした亀裂はファシズム、ユーゴ紛争、パレスチナ紛争に至るまで大きな影を落としている。

 原文の誤認を一つ一つ調べて正す翻訳も的確でありがたい。現在の紛争の震源を見極める濃密な現代史学の結晶、ぜひ熟読を。小原淳訳。

 ◇Robert Gerwarth=ベルリン生まれ。専攻は近現代ヨーロッパ史。著書に『ヒトラーの絞首人ハイドリヒ』など。

読売新聞
2019年5月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加