<東北の本棚>今も息づく信仰たどる
[レビュアー] 河北新報
日本で絶滅したオオカミが、今も身の回りに生き残っている? 東北はじめ全国に伝わるオオカミ像とオオカミ信仰を、犬好きの写真家が訪ね歩いた。民俗調査の旅のようなロマンと楽しさにあふれている。
埼玉県秩父市の椋(むく)神社の「オイヌゲエ(お犬替え)」という祭りを見物したのが発端。お札に描かれたイヌは、オオカミを指すことに気付く。オオカミは畑を荒らすイノシシや鹿を食べる益獣で、山の神の使いとして敬われていたのだ。
秩父のオオカミ信仰は1720年、三峯神社に入山した大僧都が神託を感じて、オオカミのお札を配ったのが始まりとされる。江戸で火防・盗賊除けとして信仰され、渋谷の宮益坂にもオオカミ像が残る。
オオカミ信仰は東北でも根強かった。関東と違い、馬を襲うオオカミは恐れられる存在でもあった。馬産地の奥州市では被害が深刻だったため、名馬を三峯神社に贈り、衣川に分霊してもらったとされる。
東北特有のオオカミ信仰の本山が、福島県飯舘村の山津見神社だ。242枚ものオオカミ絵が、火事による焼失から復元された。見事な天井画の写真を掲載する。神社から県境をまたいで十数キロ先の宮城県丸森町には、オオカミの石碑や木像が伝わる。
上山市には「狼石」がある。石を見た殿様が城に運ぶよう命じたが、オオカミの親子がすんでいたので諦めたという伝説が残り、歌人斎藤茂吉も歌に詠んでいる。
著者は山形県河北町出身で、棚田などを撮影。東日本大震災後に石巻市を訪れたのを機に、被災地の桜を撮影した「花咲(わら)う 被災地の桜と復興」を、福島県三春町の作家・僧侶玄侑宗久さんと共著で発表した。
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