流言のメディア史 佐藤卓己著

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流言のメディア史

『流言のメディア史』

著者
佐藤 卓己 [著]
出版社
岩波書店
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784004317647
発売日
2019/03/21
価格
972円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

流言のメディア史 佐藤卓己著

[レビュアー] 瀬川至朗(早稲田大教授)

◆あいまい情報に耐える力を

 やはり、歴史を学ぶことは重要だ。そして面白い。

 本書は、ここ約百年の現代史に登場した、さまざまな事件をめぐる「メディア流言」を、史料に基づき読み解いたものである。メディア流言とは、口コミではなく、新聞・ラジオ・テレビ・ネットなどのメディアで伝達される「あいまい情報」のことである。今はやりのフェイクニュース(意図的な偽ニュース)も含まれる。フェイクニュースは、トランプ大統領を誕生させた二〇一六年の米大統領選が生み出した新語なのだろうか。

 歴史を振り返れば、明らかに否である。著者は約八十年前の捏造(ねつぞう)ニュースを紹介している。また「火星人来襲パニック神話」「関東大震災」「キャッスル事件」「二・二六事件」「戦時流言」などを取り上げ、大手紙やラジオ、三流紙、怪文書などが流し、拡散した流言を紐(ひも)解いている。「新聞紙面の『誤報』や『捏造』のたぐいは今日より圧倒的に多かった」という。

 本書では、小説家マーク・トウェイン(一九一〇年没)の警句とされる「真実が靴の紐を結ばぬうちに、虚偽のニユースは世界を一周してしまふ」(この警句の原典が見つからないのは皮肉なことなのだが)が取り上げられている。今風に言えば「フェイクニュースはリアルニュースよりも拡散力が強い」であろう。真実より、自分が信じたいものをシェアする「ポスト真実」も、ネット社会特有の現象ではない。

 では、今日のメディア情報にどう対処したらいいのか。著者は、一人ひとりが情報発信をする責任を自覚し、「あいまい情報に耐える力」を身につけることが現代のメディア・リテラシーだと指摘する。私はNPO法人の理事長としてファクトチェック(真偽検証)の推進に取り組んでいる。その実践から、情報の多くが「真」と「偽」の間のさまざまなグラデーションに分布していることがわかる。

 あいまい情報を鵜呑(うの)みにしないで、上手に付き合う。そのために役に立つ、過去の事例と考え方を豊富に提供してくれている。

(岩波新書・972円)

1960年生まれ。京都大大学院教授。著書『ファシスト的公共性』『言論統制』など。

◆もう1冊 

瀬川至朗編著『ジャーナリズムは歴史の第一稿である。』(成文堂)

中日新聞 東京新聞
2019年5月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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