名作童話〈アリス〉をモチーフにした推理小説4選

レビュー

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  • アリス殺し
  • 螺旋階段のアリス
  • 虹の家のアリス
  • 紫のアリス

書籍情報:版元ドットコム

名作童話〈アリス〉をモチーフに“二重の謎解き”を仕掛ける

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 優れた謎解き小説は、時に底意地の悪い面を見せる。小林泰三『アリス殺し』はその良い例だ。

 大学院生の栗栖川亜理は奇妙な夢に悩んでいた。ビルという名の喋る蜥蜴や頭のおかしな帽子屋などが暮らす「不思議の国」を、アリスという少女がさ迷っているという夢だ。その夢でハンプティ・ダンプティが墜落死する事件が発生する。

 夢を見た後に亜理が大学に向かうと、玉子と綽名される研究員が屋上から転落して死亡するという事件が起きていた。その後も亜理の見る夢と呼応するように大学関係者の怪死が続く。

 ルイス・キャロルの名作童話〈アリス〉二部作をモチーフにした、特殊な設定での謎解きを描く小説だ。本作では二つの世界で起きる死が互いに影響し合う、という原則がある。異なる世界同士の相関関係を解いた上で、それぞれの犯人を探し出さねばならないという二重の謎解きに読者は挑むことになるのだ。

 ややこしいシチュエーションの小説だけに、終盤で明かされる真相もまた相当にひねくれた思考を要するもの。よほどの注意力が無い限り、冒頭から敷かれた騙しのレールに終点まで乗っかったままだろう。

 不可思議でちょっと不気味でもある〈アリス〉の物語は、ミステリ作品の題材として多く取り入れられている。加納朋子『螺旋階段のアリス』『虹の家のアリス』(ともに文春文庫)は、中年の新米探偵と助手の少女が、ルイス・キャロル作品を彷彿させる日常の謎に挑むという連作短編シリーズ。理想と現実の狭間で揺れる主人公たちを、夢の国を行き来するアリスに重ねて描いた小説でもある。

〈アリス〉二部作に垣間見える仄暗さをクローズアップしたのが柴田よしき『紫のアリス』(同)だ。不倫関係に傷ついた主人公が夜の公園で見つけたのは男の死体と三月ウサギ。新生活を始めようとする主人公の精神を「不思議の国」の住人たちがじりじりと追い詰めていく。〈アリス〉に登場する奇矯なキャラクターたちを見事に活かし、幻想味に溢れるサスペンスを作り上げている。

新潮社 週刊新潮
2019年5月23日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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