誉田哲也×倉科孝靖(警察監修)対談『ストロベリーナイト・サーガ』

対談・鼎談

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ストロベリーナイト

『ストロベリーナイト』

著者
誉田 哲也 [著]
出版社
光文社
ISBN
9784334744717

書籍情報:openBD

誉田哲也×倉科孝靖(警察監修)対談

[文] 誉田哲也(作家)/倉科孝靖(警察監修)

『ストロベリーナイト・サーガ』
二階堂ふみさんと亀梨和也さんのW主演で話題の『ストロベリーナイト・サーガ』

二階堂ふみさんと亀梨和也さんのW主演で話題の『ストロベリーナイト・サーガ』。巧みなストーリー展開や、迫力あふれる映像美はもちろん、リアルに描かれた刑事たちの姿も、注目を集めています。原作者の誉田哲也さんと対談するのは、同ドラマの警察監修をする倉科孝靖さん。現実と演出のバランスや、知られざる警察組織の実態に迫ります。

 ***

――ドラマは第二話が放送されました(対談当日現在)。ご覧になっていかがでしたか?

誉田 お芝居や画(え)作りが、第一シリーズよりも暗めのトーンに仕上がっていて、個人的には好きですね。

倉科 『報道ステーション』を見るのをやめて見ました(笑)

 面白かったけど、バイクに手首が載っているシーンが少し長すぎるんじゃない? 手首に興味があるのは鑑識だけで、視聴者は、女優さんや俳優さんの顔が見たいでしょう(笑)

――誉田さんの元には、倉科さんのチェックが入ったシナリオが届くんですよね?

誉田 そうなんです。倉科さんに監修いただいて、原作から大きく変わったところには、注釈が入っているんです。これが毎回すごく楽しみで。勉強になるんですよ。

――倉科さんが監修をされていて、「よく勘違いされているな」と思うことは何ですか?

倉科 違法捜査が多いよね。捜査令状もなく家探(やさが)ししたり、取り調べ中に机叩いたり椅子蹴飛ばしたり、ぜんぶ違法捜査だよ。取り調べ中にコーヒーを飲ませるのも、嗜好品だからダメ。

 シナリオには書かれてなくても、現場指導のときに指摘することもある。

――テレビでは取調室に窓があることが多いですが、実際もあるんですか?

倉科 窓はある。昔はタバコが吸えたから、換気のためにも必要だったね。取り調べも吸いながらやってたよ。ただし、刑事が自分のタバコを被疑者にあげるのは贈答になるからダメね。被疑者のタバコは留置係が預かってて、取り調べと、運動の時間だけは吸えた。

誉田 「面倒見てやる」って言ってたんですよね。

倉科 そう。取り調べがなくても被疑者を留置所から出して、タバコ吸わせて戻すことを「面倒見る」って言ってた。今はもう取り調べ中にはタバコは吸えない。厳しくなったよね。可視化が進んで、一部始終を録音・録画しようっていうんだから。

――最近は現場検証の場面でヘッドカバーをつけているドラマもあります。

倉科 髪の毛が落ちないようにね。昔は足カバーだけだった。自分の足跡(そくせき)を残さないのと同時に、ついている足跡をつぶさないよう、ね。当時はDNA鑑定がまだなかったから、髪の毛はそんなに気にしなかったんだよ。DNA鑑定はお金がかかるんだ。

誉田 ああ、予算のことも考えないといけないんですね。

倉科 捜査経済を考えなきゃいけない。

誉田 捜査経済! 面白いなあ。小説でも「いくらかかると思ってるんだ!」とか書けるかもしれない。

倉科 鑑定の話をするとね、たとえばコレ(アイスコーヒーのグラス)が現場にあったら、何が取れる?

誉田 唾液と指紋……。でももし本当にこの状態なんだとしたら、これだけ濡れていたら指紋は取れないですよね。

倉科 いや、ドライヤーで乾かせば取れる。指紋は油分だから、水分が飛んでも残るんだ。犯人が流し台の洗い桶の中に入れてても、乾かせば出てくる。

誉田 そうなんだ。

倉科 そうなった場合、唾液と指紋、どちらを優先して鑑識に回すかっていうのは、管理官や係長などの責任者が決める。ほかの遺留品と見比べて、あっちで指紋が取れそうだからこっちは唾液にしよう、というふうにね。

誉田 なるほど。判断能力が問われるんですね。

倉科 あとは無形の資料に気づけるかどうか。例えば、コースターだけあったとしたら、その上にグラスがあったはずだと気づけなきゃいけない。犯人が持ち去ったんだろう、と。姫川玲子だったら気づくでしょう?(笑)

――警察の実態とは違うけど、演出と割り切ってる部分もありますか?

倉科 鑑識活動中、刑事が手袋をしているのはいいんだけど、本物の刑事はあんなにいろんなものをベタベタ触らない。すでに付いている指紋をふき取ってしまう可能性があるからね。

 それに、事件現場に張られる立入禁止のキープアウトのテープ。あの中は、初動捜査では警部以上じゃないと入れないんだよ。でもそれじゃあドラマにならないから、主役の刑事たちが入るよね。被害者の直腸温度をはかるときも全裸にしないといけないから、服着てると嘘なんだけど、テレビだと映せないしね。

 あとは腕章。「捜査」って文字が書かれてるものが多いけど、本当は「池袋」とか「杉並」とか、(所轄)署名が入るんだよ。でも撮影で何回も使いたいから「捜査」にしてる(笑)。まあその辺りは大目に見てます(笑)

誉田 僕も最初は警察に関して何も知らなかったんです。『太陽にほえろ!』の七曲(ななまがり)署のように、同じところが泥棒も麻薬も殺人も捜査するような感覚で書き始めたんですよ。

倉科 当時はやってたよ。縦割りじゃなかったから、賭博から殺人から選挙違反から、情報とってきたらなんでもやってた。縦割りになったのは昭和53年ごろだね。

誉田 そうなんですか。じゃあ『太陽にほえろ!』が間違ってたんじゃなくて、時代が変わったんですね。

倉科 機動捜査隊なんかは、テレビドラマがリードしてできたんだよ。そういう意味では、有意義なものもあるんだよね。

誉田 演出という意味では、“姫川班”も、本来の正式な組織にはないものです。どうして班にしたかっていうと、係の十人を書き分けるってめちゃくちゃ大変なんですよ。

 だから、玲子は十係なんですけど、突発的に都内で十一件以上の事件が起こって、係をさらに分けなきゃいけないという設定で書き始めたんです。

誉田 倉科さんは管理官も経験されていますよね。警察小説を書き始めたころは、管理官という役職がいちばん分かりにくかったんです。

倉科 管理官という呼び名は警視庁くらいでしか使ってないでしょう。地方だと、課長補佐とか課長代理っていうから。

誉田 そうなんですか。警視庁の組織図を見ると、全体的に監督する捜査一課長がいて、その下に強行犯捜査第一係や第二係がいて、管理官はその間にいるんですよね。

 ときには、ひとりの管理官が、係を三つくらい持っている。あっちに行ったりこっちに行ったりしないといけないから、そのために管理官の専用車があるんですよね。

倉科 そう。私が管理官だったときの運転手が飯田(いいだ)君という男で、私が五社プロダクションに入るより前に、五社プロで警察監修をやっていた。警察監修という仕事は、彼が初めてなんじゃないかな。

誉田 飯田さんには『ストロベリーナイト』のいちばん最初のスペシャルドラマを監修していただきました。倉科さんの運転手をされていたんですね。

 運転手というのは、階級的にはどのあたりになるんですか?

倉科 巡査か巡査部長。飯田君とは、とある事件で一緒になったときに、動きがいいなと思ってね。管理官になって運転手をつけなきゃいけなくなったとき、あいつは優秀だったなと思い出して所轄から呼んだんだよ。

誉田 そうだったんですね。

倉科 運転手を二年やらせた後、ふつうは見習いだから強盗犯捜査に入れるんだけど、いちばんきつい現場資料班に入れてやったんだ(笑)

誉田 現場資料班って、実際に部屋があって資料があるんですか?

倉科 そう、ロッカーの中に過去のものも全部入ってる。現場資料班は、24時間全件臨場だから、飯田君は事件にならなかったものも全部知ってた。

――そういう方々が警察監修をされているなら、たしかにドラマもリアルになりますね。現場資料班は、休みはまったくないんですか?

倉科 休みがあっても、呼び出しがあったら出ないといけないからね。飯田君は、携帯電話を頭に乗せて風呂に入ってたんだよ。

――倉科さんは高校を卒業後、警察官になられたんですね。

倉科 そう、光文社も受けたけど落とされた(笑)。最初は巣鴨(すがも)署に配属された。そのころはこの辺り(護国寺(ごこくじ))を走り回ってたよ。

誉田 刑事になられたのが一九六九年なんですよね。僕が生まれた年と同じで、縁を感じます。

倉科 その後、巡査部長になって品川署を経て機動隊勤務の時、海上自衛隊へ行けって言われたんだよ。水難救助隊を創るから、その指導者になれるように訓練を積んで来いって。

誉田 「アクアラング部隊」の祖を創られたんですね。すごいな。

――『ストロベリーナイト・サーガ』第一話のように、池に潜られていたんですね。何か発見されたことはありますか。

倉科 凶器をあげたり、飛び込み自殺したおじいさんをあげたりしたこともあった。東京の川や海は汚いから、水の中が真っ暗闇で何も見えなくて、それが怖かったね。大きな磁石を持って潜って、くっついたものを片っぱしからあげてたよ。

――誉田さんは小説を書く際、警察関係のことはどうやって調べられていますか?

誉田 最初のころは、ムック本とかノンフィクションとかを読んで勉強してました。だんだんと警察関係の知り合いも増えてきたので、疑問点はそういう方たちに伺う場合もあるんですけど、そもそも疑問にすら思ってないこともあるんです。

 例えば、ある作品を警察関係者の人に送ったときに電話をもらったんですけど、「面白かったけどね、誉田さん、警察官は“ホルスター”って言わないんだよね」って。言わないんですよね?

倉科 あんまり言わないね。正式には“拳銃入れ”だね。

誉田 そう。でも小説で「拳銃入れから拳銃を出し、拳銃を撃って拳銃入れにしまい……」って書きたくないじゃないですか。拳銃とは別の、響きの違う言葉が欲しいから、ほかにアイデアないですかって粘って聞き出して、“拳銃サック”なら言うかなってことだったんですけど。

倉科 私服刑事が胸につけてるのは“ホルスター”でもいいんじゃないかな。あれは私物だからね。

誉田 えっ、そうなんですか。

倉科 官給品は、腰につける拳銃入れだけだから。

誉田 ホルスターはどこで調達するんですか。

倉科 ガンマニアの店とかね。

誉田 マニアと同じ店で買ってるんですか! 面白いなあ。こういう事を知ると、わざわざホルスターを買う場面を書きたくなるんですよね(笑)

――警察組織や制度が、どんどんと変わってきていますよね。SSBC(捜査支援分析センター)の設置などもそのひとつです。

倉科 当時、工学部卒業の警察官が交番に1500人いたんだよ。もったいない、もっと活用できるじゃないかということで設置された側面もある。

誉田 SSBCができたことで、現場の刑事は楽になってるんですか。

倉科 楽になってるとは思う。だけど、活用の仕方はまだまだこれからじゃないかな。画像を拡大するにしても、どの点を大きくするのかはセンスが必要だからね。

誉田 カメラの性能が上がって、解像度もどんどん高くなってきてますけど、この前、その逆パターンを知ったんです。

 ボケたナンバープレートの写真があって、こういうボケ方をするのはどういう文字なんだろうと類推していく。ボケた文字のサンプルをたくさん取って、このボケ方は「練馬」じゃないかと。そういうアプローチも面白いなと思いました。

――実際の警察組織の変化に合わせて、フィクションも変化が必要になりますね。

倉科 昔は、警察ドラマを見た現場の人間から「あのシーンはおかしいじゃないか」ってクレームが俺のところにきてたんだ(笑)。俺が監修してないものは知らないよって言うんだけど。でも最近はそれらしいドラマになってきたって声をよく聞くね。

誉田 倉科さんたちが監修に入ることで変わってきたということですね。

倉科 そう自負してます。

誉田 全国で26万人警察官がいて、それぞれに親兄弟や家族がいると考えると、警察関係者って軽く100万人は超えるんですよね。その人たちに「こんなのデタラメだよ」って冷められちゃうのは損だと思うんです。だから僕も日々勉強して新しい情報を仕入れて、一冊ごとに精度は上げられてると思っています。

 映像の世界も、倉科さんが直接手掛けなくても、きちんと監修された警察ドラマが増えることで、心がける作り手は増えていくと思いますね。

 そうしてドラマがリアルに近づいたら、小説も同じくらい近づけないとまずい。もっと頑張らないといけないな、と思います。

 ***

誉田哲也 ほんだ・てつや
1969年東京都生まれ。2002年『妖の華』で第二回ムー伝奇ノベル大賞優秀賞受賞、’03年『アクセス』で第四回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞。’06年刊行の『ストロベリーナイト』に始まる〈姫川玲子シリーズ〉は、斬新な女性刑事像を打ち出し話題に。『ジウ』など警察小説のほか、映画化もされた『武士道シックスティーン』『世界でいちばん長い写真』など、青春小説でも人気を博す。

倉科孝靖 くらしな・たかやす
東京都生まれ。1969年警視庁刑事を拝命、’73年第二機動隊(水難救助隊潜水士)、’77年刑事部配属以降、鑑識課では現場主任、検視官、機動捜査隊副隊長、隊長を歴任。捜査一課管理官、理事官、科学捜査研究所所長、警察大学校主任教授を経て三鷹署長、渋谷署長を歴任し2004年9月勇退(警視長)。’11年、五社プロダクションに所属。警察監修「チーム五社」のリーダーとして、数々の映画、TVのヒットドラマを担当し、活躍中。

光文社 小説宝石
2019年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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