「平成」という時代を真っ向から描いたミステリー

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

ブルー = Blue

『ブルー = Blue』

著者
葉真中, 顕, 1976-
出版社
光文社
ISBN
9784334912734
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

「平成」という時代が投影されたミステリー

[レビュアー] 石井千湖(書評家)

 令和になりたてほやほやの今、読んでおきたい。葉真中顕の『Blue』は、一九八九年一月八日に生まれ、二〇一九年四月三〇日に死んだ〈ブルー〉と呼ばれる男をめぐる物語。平成という時代を真っ向から描いたミステリーだ。

 平成一五年のクリスマス・イブ、東京郊外で教員一家が惨殺される。その家の次女であり、両親と姉と甥を殺害した犯人と思われる篠原夏希は、薬物を過剰摂取して死んでいた。CDラジカセから流れていたSMAPの『世界に一つだけの花』、昭和で時間が止まったような夏希の部屋、壁にはられていた青い湖の写真……。家族に何が起こったのか。警視庁捜査一課の刑事・藤崎文吾は、十五年以上引きこもっていたという夏希の過去を探る。そして浮上した共犯者ブルーを追う。

 自分探しのために海外を旅する若者、振り込め詐欺の被害にあったマンションオーナー、東日本大震災の被災者であるシングルマザー、排外的な心性を持っているが自分の意見は発信しないライトなネット右翼、低賃金で酷使される外国人技能実習生など、平成日本の社会問題を象徴するような人を次々と登場させながらも、一人ひとりが血の通った人間に感じられるところがいい。

 とりわけ記憶に残るのが、デートクラブの寮で一時期ブルーと暮らしていた女性のエピソードだ。実父に強姦されていた彼女は、十五歳のときあるドラマを見たことをきっかけに家を出た。〈この世界にはきっと私の知らない“美しいもの”がたくさんある。それに触れてみたい。触れることができないのなら、死んでもいい〉と思えたからだ。紆余曲折を経て彼女が望んでいた〈美しいもの〉に触れる三九七ページは本書のなかでも白眉のシーンだろう。

 身近な現実にどんな地獄があるのか突きつけられるけれど、自分の選択次第で美しいものに出会える。そう信じられる話になっている。

新潮社 週刊新潮
2019年5月30日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク