選挙制を疑う Against Elections…ダーヴィッド・ヴァン・レイブルック著

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選挙制を疑う

『選挙制を疑う』

著者
ダーヴィッド・ヴァン・レイブルック [著]/岡﨑 晴輝 [訳]/ディミトリ・ヴァンオーヴェルベーク [訳]
出版社
法政大学出版局
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784588603587
発売日
2019/04/06
価格
3,672円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

選挙制を疑う Against Elections…ダーヴィッド・ヴァン・レイブルック著

[レビュアー] 坂井豊貴(経済学者・慶応大教授)

 私事で恐縮だが、以前『多数決を疑う』という本を書いたことがある。選挙の方式は、単純な多数決だけでなく、他にも色々と優れた方式がある。だからそれらを選挙で使おうというのが私の主張であった。つまり私は多数決を疑ったが、選挙制は疑っていなかった。だが本書の著者は選挙制そのものを疑う。そして、くじ引きで議員を選出せよと主張する。

 著者が選挙を嫌うのは、それが人気取り合戦に終始しやすいからだ。とりわけフェイスブックやツイッターといったSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が普及してから、政治家は自分の言動に有権者がどう反応しているか、即座に把握できるようになった。消費者に衝動買いしてもらうように、マーケティングで有権者に働きかけること、政治という公共の空間が、奔放な自由市場のようになることを、著者は強く懸念する。

 それでは、くじで選ばれた一般人に議員は務まるのか。著者は、そのようなことができている例として、くじで選ばれた陪審員が任務にあたる裁判をあげる。そして熟議民主主義の研究を引き合いに出し、適切な熟議の場を設けると、人々の意欲や能力は引き出されるのだと論じる。著者はさらに古代アテナイの民主制を概観する。そこでは、くじで選ばれた人々が政府を運営していたのであった。

 著者は、くじが万能だと主張するわけではない。選挙だけではなく、くじも活用せよ、というのが政策としての提言である。たとえば国会の二院のうち、片方の議員は選挙で、もう片方の議員はくじで選ぶというようにだ。スペインやスイスでは、そうした制度の導入を求める運動があるという。大切なのは民主主義であって、選挙原理主義ではないのだ。今日の状況で選挙は「民主主義をむしろ阻害している」との、著者の指摘に深く耳を傾けたい。岡崎晴輝、ディミトリ・ヴァンオーヴェルベーク訳。

 ◇David Van Reybrouck=1971年、ベルギー生まれ。作家。ヨーロッパを代表する知識人の一人。

読売新聞
2019年5月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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