厨房から台所へ…タサン志麻著 ダイヤモンド社

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厨房から台所へ

『厨房から台所へ』

著者
タサン 志麻 [著]
出版社
ダイヤモンド社
ジャンル
芸術・生活/家事
ISBN
9784478106464
発売日
2019/02/15
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

厨房から台所へ…タサン志麻著 ダイヤモンド社

[レビュアー] 本郷恵子(中世史学者・東京大教授)

 伝説の家政婦志麻さんをご存知だろうか? 家事代行マッチングサービスを通じて依頼すると、家に来てくれて、わずか3時間で1週間分の料理をつくりおきしてくれる。各家庭で用意した食材や調理の設備に臨機応変に対応し、家族の事情や好みにあわせ、淡々と流れるように、後片付けまで完璧にこなして、何種類もの料理が並ぶ。人気が人気を呼んで「予約が取れない伝説の家政婦」として評判になった。

 2017年にテレビで紹介されたことをきっかけに、次々と料理本を刊行してきたが、本書は志麻さんの半生を、節目ごとの印象的な料理とともにふりかえるというもの。故郷山口の郷土料理「けんちょう」(精進のお煮しめ)、母直伝の皮から手作りする餃子(ギョーザ)。志麻さんは大阪の料理学校で学び、同校のフランス校に進学、三ツ星レストランで半年間の研修も経験した。心惹(ひ)かれたのは、しみじみおいしいフランス家庭料理やまかない料理。家庭で手作りするマヨネーズにドーンと出されるローストチキン。

 帰国して東京のレストランに勤めるが、命を削る勢いで仕事にのめりこみ、周りが見えなくなって人間関係も体もボロボロにした。20代の志麻さんは、傷だらけになっても走ろうとしていた。切なすぎて胸が痛い。

 その後アルバイト先のレストランで知り合ったフランス人男性と結婚。ウエディングケーキはクロカンブッシュ(シュークリームを積み重ねたデザート)。妊娠を機にレストランを辞めて、自分のペースでできる家事代行の仕事に転身した。始めた頃は、夫以外の誰にもそのことを言えなかった。葛藤はあったけれど、家族の背景まで汲(く)みとりながら料理をしていくうちに、こだわりがほどけて自分が本当にやりたかったことが見えてきた。つくりおきの人気メニューは、ナスとピーマンと豚肉の甘みそ炒(いた)め・野菜たっぷりスパニッシュオムレツ。食べたものは体になり、心になり、人生をつくる。

読売新聞
2019年5月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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