霊長類学者と作家が語り合った「ゴリラの生き方」

レビュー

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ゴリラの森、言葉の海

『ゴリラの森、言葉の海』

著者
山極 寿一 [著]/小川 洋子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784104013081
発売日
2019/04/25
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

言葉のフィルターをとおして見る遠くて静かな“ゴリラの森”

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 群れの中で生きる野生動物の暮らしぶりが気になる。わたしはヒトのルールをどうにか守ろうとしながら生きているが、そこに矛盾や息苦しさを感じるとき、ヒト以外の群れのルールを見てみたくなるのだ。だからゴリラにかんする書籍には当然とびつく。これは、霊長類学者と作家がゴリラの生き方について語り合ったものだ。数度におよぶ対話は時と場所を移しながら、最後は屋久島へ。

 ゴリラにごく近い場所で群れのありさまをつぶさに観察してきた人の語りは魅力的である。ゴリラ社会では、目を見つめることが威嚇の意味をもたない。遊びに誘うときも、子どもに言い聞かせるときも、相手の顔をじっとのぞきこむ。有力なオス同士が喧嘩しそうな場面では、若いオスが双方に近寄り顔をのぞきこんで、ちゃんと仲裁する。言葉によらない仲裁が成立することに、わたしはちょっと感動した。ヒトは言葉を中心に生きるようになって、身体の表現力を衰退させているから。

 霊長類学者の語るゴリラの行動やしぐさを、作家が自分の言葉におきかえていく。それはヒトの視点でゴリラを見るということだ。当たり前のことだが、ヒトは未知の現象を解釈するときに、自分のもっている言葉をあてはめることでしか対処できない。そもそもフィールドワークの時点で、日本語話者が日本語で記すゴリラの動作のひとつひとつは、日本語のニュアンスに色濃く染められている。同一の場面を観察したとしても、違う言葉をもった人が記述したら、違う言葉が違う解釈を導き出すかも。そんなことを思い、同じページを何度か繰り返し読んでは楽しい思索にふけった。

 そんなふうに言葉のフィルターをとおしてしかものを見られないヒトは、もともと書名にいう「言葉の海」のなかで生きる存在だ。言葉の海に浮かべたボートから見るゴリラの森は遠くて静かで、いつまでもそっと見ていたい。

新潮社 週刊新潮
2019年5月30日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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