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“最後の1行”の衝撃で全体をひっくり返す作品
[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)
志駕晃のデビュー作『スマホを落としただけなのに』は、北川景子主演で映画化され、興収20億円近い大ヒット。うちの長女(中学3年生)もそれに貢献したクチで、同級生のあいだでも大いに流行したらしい。角川文庫から出た志駕晃の新作は、それとまったく無関係の単発長編だが、題名は『あなたもスマホに殺される』。あやかる気満々のこのタイトルに惹かれてか、書評用で届いた本をすばやく持ち去った長女。数日後、本を返しにきて、キレ気味にいわく、「これ、最後の1行の意味が全然わかんないんだけど!」
どれどれと読んでみたところ、今回の主人公は公立中学の国語教師。スマホに届いた「自殺相談室」という表題のメールにうっかり返信したのをきっかけに、アプリをダウンロード、相談に回答して“自殺ポイント”を貯めることにハマってゆく。その過程がなかなかリアルで、思わず引き込まれる。
問題の“最後の1行”は、斜め上から小説全体をひっくり返すタイプ。たしかに意外すぎて、ぽかんとする読者も多そうだ。実際、うちの娘は、説明しても納得せず、「だって○○って書いてあったじゃん!」「いや、よく読むとそうは書いてなくて」「そんなわけない! えっ。待って。どういうこと!?」みたいな会話がひとしきり交わされたことでした。そんな楽しみ方は邪道だと言われそうだが、はたしてラスト1行に驚けるかどうか、ぜひ試してみてください。
結末のサプライズと言えば、岩木一麻のデビュー作『がん消滅の罠 完全寛解(かんかい)の謎』(宝島社文庫)のラスト1行も鮮やかだが、あれはどちらかと言うとデザート的なツイストで、本筋とはそれほど関係ない。
この手の“最後の一撃(フィニッシング・ストローク)”で、今世紀もっとも大きな成功を収めたのは、映画化もされた乾くるみの一大ベストセラー『イニシエーション・ラブ』(文春文庫)だろう。ミステリでもなんでもない、ごくふつうの恋愛小説が、最後の2行で一変する。世界の見え方ががらりと変わる、めったにない瞬間が体験できる1冊だ。