コスモス…光用千春著 イースト・プレス

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コスモス

『コスモス』

著者
光用千春 [著]
出版社
イースト・プレス
ISBN
9784781617633
発売日
2019/04/07
価格
1,080円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

コスモス…光用千春著 イースト・プレス

[レビュアー] 一青窈(歌手)

 お父さん今日から2人暮らしですね、という帯の言葉に惹(ひ)かれて手に取った漫画である。小学3年生の花ちゃんとパパの素朴なやり取りの中に人生の機微が詰まっていて深い作品だ。

 実際にオノマトペは描かれていないのだが、音を感じるイラストが彼女独特で新しい。そういえば私は母のかける掃除機の音を聞きながら、こたつでうとうとするのが好きだった。ダイエットしているのに夜食を持ってきたり、やることなすことにいちいちイラついていた時期もあった。それでもそれが実は思いやりだと判(わか)って後悔したり、心配されることにじんとなったり、心の片隅で湧く声を独り言でつぶやいていた。

 頭の中で思いを巡らせて人の気持ちを推し量っていた子供の頃の自分と花ちゃんとを重ねてみんな同じなんだなと思った。きっとこの漫画を読む人は自分の人生をなぞれるポイントがいくつも出てくるだろう。

 <どうしてトイレにこもる時ってお祈りみたいな形になるの/さむい>と少女がすでに大人と同じ思考をめぐらせて、現実と直面しどう乗り越えてゆくかを案じている様は、淡々としていながらもリアルに心に響く。日常の中で空をみつめて心の声を反芻(はんすう)し、気持ちを整理していくことが成長に大切だったと気づかせてくれる。

 人は口から出てくる言葉が、心で思うことと全く相反できる不思議な生き物だ。親の葬式で味わったみたいな、実際には神妙な空間で、寂しいという感情よりも身体的に“雪が降っていて寒い”だとか“早く焼香終わって眠りたいな”だとか即物的な感覚が研ぎ澄まされていたことを思い出して、誤魔化さない言葉をセリフに取り込む作者に感服した。

 ◇みつもち・ちはる=1986年神奈川県生まれ、多摩美術大卒。漫画家、イラストレーター。

読売新聞
2019年5月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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