個人的にも文句なし、胸がしめつけられる今年の山本賞受賞作〈トヨザキ社長のヤツザキ文学賞〉

レビュー

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平場の月

『平場の月』

著者
朝倉かすみ [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334912567
発売日
2018/12/14
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

いかれころ

『いかれころ』

著者
三国 美千子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103526612
発売日
2019/06/27
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

個人的にも文句なし、胸がしめつけられる逸品 今年の山本賞受賞作

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

 小説、評論、詩歌、戯曲を対象に、文学の前途を拓く新鋭の作品に授賞する三島由紀夫賞(現選考委員は川上弘美、高村薫、辻原登、平野啓一郎、町田康)。小説を対象に、すぐれて物語性を有する新しい文芸作品に授賞する山本周五郎賞(石田衣良、荻原浩、角田光代、佐々木譲、唯川恵)。五月十五日、その第三十二回受賞作品が発表されました。

 金子薫『壺中に天あり獣あり』、岸政彦『図書室』、倉数茂『名もなき王国』、三国美千子いかれころ』、宮下遼『青痣』という候補作から三島賞を受賞したのは三国作品。新潮新人賞に輝いたデビュー作にあたり、選考委員代表で会見した町田康氏によれば、一回目の投票で満票を獲得した文句なしの受賞作であった由。

 昭和五十八年、大阪の南河内で古くから農家を営む旧家の一族の人間模様を、四歳の〈私〉とすでに大人になった〈私〉、ふたつの視点を混在させながら描き、因習にかたまった差別意識や田舎ならではの濃密な親族関係を方言で浮かび上がらせ、たしかに達者な小説になっています。

 かたや山本賞は、芦沢央『火のないところに煙は』、赤松利市『鯖』、朝倉かすみ平場の月』、木皿泉『カゲロボ』、澤田瞳子『落花』の中から受賞したのが朝倉作品。記者会見に現れた石田衣良氏によれば、これまた一回目の投票でほぼ満票を獲得し、赤松作品も票を集めたものの、すんなり受賞作が決まったとのこと。

 主人公男女はバツイチの五十歳、住んでいるのは出身地でもある埼玉県のマイナーな町。男の名は青砥で、女の名は須藤。中学校の同級生だった二人がばったり再会し、景気づけ合いっこの飲み会をちょくちょく開くことに。互いの過去や現況を語り合ううちに、少しずつ心の距離を縮めていく青砥と須藤。

 でも、読者は物語が始まって早々に知らされています。須藤が青砥を残して死んでしまうことを。ごく普通の場所でつつましく暮らしている男女の、友情にも似た恋愛を描いて、読み進めるほどに胸しめつけられる逸品が『平場の月』なのです。個人的にも文句なしの山本賞受賞作。映画化ドラマ化される前に是非!

新潮社 週刊新潮
2019年5月30日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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