『傾城 徳川家康』
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最新学説とエロスの結実
[レビュアー] 大塚卓嗣(作家)
そもそもの疑問は、世阿弥(ぜあみ)『風姿花伝』の巻末にある、この一節でした。
――十郎かたの書物は、家康の御所持也。
徳川家康は、能の秘伝書たる『風姿花伝』を、観世十郎大夫という能楽師から譲り受けたのですが、それはまだ、家康が今川家の人質であった頃のことだというのです。
なぜ、天下を治めるずっと前の家康が、「秘伝」と記された奥義書を、所持することとなったのか?
徳川家康といえば、文化への理解のない、肥満体の老人というイメージで語られることの多い人物ですが、そのようなステレオタイプは、一度、破棄する必要がありそうに思えました。『風姿花伝』を譲られるほど、能を極めていたならば、足利義満の寵愛を受けた世阿弥のように、絶世の美少年であったかもしれません。
そのように考えたとき、いろいろ思いついてしまいました。
――傾国の美少年・徳川家康。
――たったひとりの少年に蚕食される今川家。
――桶狭間の戦いを、裏で操る若き家康。
そんな妄想をふくらませながら、数々の論文を読み込んでプロットを補強していき、ようやく完成しました。『傾城(けいせい) 徳川家康』。
多くの史料と、最新学説の数々から導き出された、暴力と官能の「どエンタメ」歴史小説です。
主人公の徳川家康=竹千代は、可愛いながらも、限りなくエロく、そして、そら恐ろしい少年に仕上がっています。
国を寝盗(ねと)る美少年の活躍を、ぜひ、お楽しみください。