最新学説とエロスの結実――『傾城(けいせい) 徳川家康』著者新刊エッセイ 大塚卓嗣

エッセイ

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傾城 徳川家康

『傾城 徳川家康』

著者
大塚卓嗣 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334912833
発売日
2019/05/24
価格
2,090円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

最新学説とエロスの結実

[レビュアー] 大塚卓嗣(作家)

 そもそもの疑問は、世阿弥(ぜあみ)『風姿花伝』の巻末にある、この一節でした。

 ――十郎かたの書物は、家康の御所持也。

 徳川家康は、能の秘伝書たる『風姿花伝』を、観世十郎大夫という能楽師から譲り受けたのですが、それはまだ、家康が今川家の人質であった頃のことだというのです。

 なぜ、天下を治めるずっと前の家康が、「秘伝」と記された奥義書を、所持することとなったのか?

 徳川家康といえば、文化への理解のない、肥満体の老人というイメージで語られることの多い人物ですが、そのようなステレオタイプは、一度、破棄する必要がありそうに思えました。『風姿花伝』を譲られるほど、能を極めていたならば、足利義満の寵愛を受けた世阿弥のように、絶世の美少年であったかもしれません。

 そのように考えたとき、いろいろ思いついてしまいました。

 ――傾国の美少年・徳川家康。
 ――たったひとりの少年に蚕食される今川家。
 ――桶狭間の戦いを、裏で操る若き家康。

 そんな妄想をふくらませながら、数々の論文を読み込んでプロットを補強していき、ようやく完成しました。『傾城(けいせい) 徳川家康』。

 多くの史料と、最新学説の数々から導き出された、暴力と官能の「どエンタメ」歴史小説です。

 主人公の徳川家康=竹千代は、可愛いながらも、限りなくエロく、そして、そら恐ろしい少年に仕上がっています。

 国を寝盗(ねと)る美少年の活躍を、ぜひ、お楽しみください。

光文社 小説宝石
2019年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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